中村錦之助が飄々とした年齢不詳の森繁久彌とは違った、若くて颯爽で軽妙な石松像を好演して作品に清涼な風を吹かし心地よい佳作に。そして錦之助ならではの歯切れの良い滑舌がマキノ雅弘独特の台詞回しと一体化し、聞き応えのある啖呵となって耳に気持ちよくもたらされる。原色のカラーや東映らしい賑やかなエキストラも明朗な錦之助石松の世界観とぴったり。
その分敵に襲撃されるラストは青春の炎を踏み潰されたような気分になり、少し切なくなる。エンディングの開眼演技は馬鹿な男なりの意地が感じられる錦之助の名演が見事に締めくくり余韻を残す。
石松が惚れる夕顔の丘さとみもキュートで、マキノ好みのヒロイン像を体現。あと錦之助の猿踊り(マキノ監督の十八番らしい)も必見。