シンタロー

女が階段を上る時のシンタローのレビュー・感想・評価

女が階段を上る時(1960年製作の映画)
4.0
成瀬巳喜男監督×高峰秀子主演作品。"そして夜が来る…私は階段を上る時が一番嫌だった…上がってしまえば、その日の風が吹く"
矢代圭子は銀座のバーの雇われママ。5年前、喫茶店で働いているところを、今のマネージャー・小松にスカウトされ、"ライラック"で働くようになった。オーナーに呼び出され、売上げが落ちていると責められる。圭子の下で働いていたユリが独立し、常連客を大量に引き抜いたことが原因だった。"どうしよう…覚悟をしなければならないところへ、追いつめられた"
圭子は小松と共に店をやめ、"カルトン"に移る。そんな時、関西の実業家・郷田から店を持たせるから、と迫られる。一方、うまくいっていると思われていたユリは…。
夜の女の物語です。基本的に自分は苦手。虚飾に満ちた夜の世界、男と女の惚れた腫れた、女同士の諍いなんかで、ドロドロネバネバが多い、大映、東映なんかの作品だったら、観なかったと思います。女性映画の成瀬監督は流石で、そんな単純なものは軽く流してます。決して水商売に向いていない圭子が、なぜこのような生活を続けなければならないのかという背景、抱えている責任の方に視点を置いているのが興味深いと思いました。特に中盤で描かれる貧しい実家での母親、兄との関係性の描写が秀逸。演者の芝居も見応えあります。「銀座の女はなりで勝負してるのよ!」からの心情吐露…作品の核心に触れる名場面だと思います。貞節を守ろうとする圭子を襲う後半、ジェットコースターのような誘惑の連発も見どころ。落ちるだけでは終わらせない、しっかり作品のタイトルへ繋げていく終わらせ方が素晴らしく、たくましい姿に胸打たれました。
なんと言っても、主演の高峰秀子が素晴らしかった。いかにも夜の蝶みたいな女優では、この境遇や悲哀は表現出来なかったと思います。好きなタイプではないけど、この人の表情の作り方や台詞回しは、いつ観ても感心してしまいます。あと、着物と帯のセンスが素敵。とても良くお似合いでした。取り巻く男優陣もおもしろい。ダンディな森雅之と、スケベ面の中村鴈治郎は安定の存在感。善人ヅラして弱みにつけ込む加東大介と、頼れる相談相手のふりしてギラついた目で狙う仲代達矢の芝居が良かったです。
シンタロー

シンタロー