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容疑者Xの献身のgladdesignのネタバレレビュー・内容・結末

容疑者Xの献身(2008年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

東野圭吾の『探偵ガリレオ』シリーズ初の長編で、第134回直木賞に輝いた同名小説を映画化。
「献身」。
およそ小説や映画のタイトルにはなりそうにない言葉だ。
東野圭吾作品に特有の、トリックや謎のどんでん返しが注目されがちだが、本作の肝はそこではない。
登場人物たちの行動や事実だけを淡々と積み重ねながらも、その奥に秘められた動機や理由、想いや葛藤に読者(視聴者)が気づいたとき、一気にあふれ出る言葉にならない嗚咽の切なさたるや。
全てが明らかになったとき、感情の整理ができない自分がいた。

原作は昔読んでいたので、ある程度の予備知識としてストーリーも知っていた。
知っていたにも関わらず、なんとも言い表しようがない感情に包まれてしまう。

どの登場人物に感情移入するかによって、さまざまな見方ができる映画になっていたと思う。
私はどうしても石神哲哉(堤真一)に感情移入してしまう。
人生に絶望することはたいてい誰にでもあるものだろう。
花岡靖子(松雪泰子)のような、存在するだけで周りを幸せにするような人間は実際にいる(結果的にはそうはならなかったが)。そうした人を想う気持ちは、学問だけに没頭する人間であっても、人生のどこかのタイミングで芽生えることもあるだろう。

自分の見えている世界(石神にとっては数学だった)を他人と共有したいというのは、人間に備わった本能なのかもしれない。
同じような世界観を描いた小説に『永遠についての証明』(岩井圭也:著)がある。
数学の天才の友情物語で、話が合う友との青春の切なさを描いている。
石神にとって、数学の世界の素晴らしさ、面白さを共有できた数少ない友人が湯川学(福山雅治)だった。
そうした友と過ごした時間をも犠牲にして、花岡親子を守りたかったという「献身」が胸に迫る。

映画は小説のエッセンスをうまく抽出しつつ、独自の解釈も散りばめながらも、綺麗にまとまっていたと思う。
小説とまったく同じではない描写や、そもそも湯川を訪ねてくる刑事が内海薫(柴咲コウ)というオリジナルキャラクターになっていたりはするが、結果的にはエンタメ作品として正解だったのだろう。
ただ一点、雪山のシーンは必要だったのだろうか・・・と思ってしまった。
頭のいい湯川なら、雪山で二人きりというのはリスクがあったはずなので、二人だけで登るという選択はしなかったのではないか、と。
湯川が殺されるとか、石神自身が自殺を図るなどのリスクは当然あったはずだ。
それでも、石神を友人として見ていた湯川、という解釈も成り立ちはするが。

また、本作は堤真一と松雪泰子の演技力が抜群であった。
これだけでも観て良かったと思わせる作品だ。
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