のんchan

死ぬまでにしたい10のことののんchanのネタバレレビュー・内容・結末

死ぬまでにしたい10のこと(2003年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

2003年10月に日本で公開された時、Bunkamuraル・シネマで出逢った。
  
冒頭からエンドロールまでの106分間は衝撃が走りっぱなしで、観終わった後にその感情の置き場をどう処理したらよいか困惑した記憶がある。忘れる事は出来ない。もちろん良い意味で。
   
映画好きと言っても、脚本や監督の思想とか映画の作り方とか撮り方とかの専門的な事はまったく勉強不足だし、大それた事など書けない。
好きな監督のものなら全作品が好みになるか?と言ったら決してそうでもないと思うし。

ただこの作品は、私にとって嗜好の全てが集大成しているといっても過言ではない。
どこの部分を切り取っても、どの角度から評したとしても素晴らし過ぎると思っている。 

スクリーンで2回、DVDで今日4回目となったけど...書き留めておきたくなったので...ネタばれになりますがお許しください。


【あらすじ】
アン(サラ・ポーリー)は23歳の主婦。17歳のファースト・キスの相手ドン(スコット・スピードマン)と子供が出来て結婚。19歳で次女を出産。母の家の裏庭にあるトレーラーハウスで暮らしている。
夜に大学の清掃作業の仕事をこなし、ホテルの厨房で働く母を拾って車で帰り、眠ったかと思ったらすぐに朝が来て二人の娘のために朝食の準備をし、家事に追われる毎日。そんなある日、失業中の夫ドンが二人の娘を学校に送って行ったあと、腹痛で倒れ病院に運ばれる。検査の結果は癌。
若さのせいで癌の進行が早く、すでに全身に転移してしまっていた。余命2ヶ月の命と告知される。
アンは夜明けのコーヒーショップで死ぬまでにしたいことリストを作り、ひとつずつ実行に移していく。
癌であることを誰にも告げずに…。


《私が死ぬまでにしておくこと》
1.娘たちに毎日「愛してる」と言う。
2.娘たちの気に入る新しいママを探す。
3.娘たちが18歳になるまで毎年の誕生日に贈るメッセージを録音する。
4.家族でビーチへ行く。
5.好きなだけお酒とタバコを楽しむ。
6.思っていることを話す。
7.夫以外の人と付き合ってみる。
8.男性を夢中にさせる。
9.刑務所のパパに会う。
10.爪とヘアスタイルを変える。
 
                   
【所感】
自分が23歳で余命2ヶ月と告知されたらどうなるか...もうその年頃はとっくに過ぎ去ったので、今なら望むところ(実は長生きしたくないと思ってる)だけど、そんな若い時なら泣き叫ぶのが落ち。
主人公アンはとにかく落ち着いて、自分を冷静に視つめつつ行動を起こして行く。
上の箇条書きを掻い摘んで説明すると、
簡単に実行出来そうなのは
1.4.5.6.9.10

2.は隣に越して来た、たまたま同名のアン(レオノール・ワトリング)に後妻と娘たちの母親になってもらいたいという希望を抱く。

3.は車の中で娘2人に宛てて、毎年の誕生日用にメッセージを1本づつテープに吹き込んで行く。

7.8.は2人が出逢うコインランドリーから始まるのだが、運命的に急接近する。
     
アンに一目惚れしたリー(マーク・ラファロ)は、長椅子でうたたねをしてしまうアンの顔を穴があくほど見つめる。
その間に出来上がった洗濯物をたたみ、読み掛けの一冊の本に自分の電話番号を書いて挟み、洗濯物の袋にしのばせる。
家で気付いたアンはその本を返しに行き、付き合いが始まる。

リーの車で音楽を聴くのだけど、2人ともお互いが欲しくなる。その時にアンが言う。

アン 「キスしてくれないと叫ぶわ....(間).....キャア~〜~」
リー 「黙って」と言って、アンの叫ぶ口元を自分の唇で塞ぐ。 
激しく燃えるキス❤ 
ここのシーンがもうたまんない。
私のたまんないシーンはこの映画で盛り沢山ですが....
※余計な話ですが、マーク・ラファロのkissが好みです🥰


ストーリーは決してお涙ちょうだいに終わらず、短か過ぎた人生にも訪れるささやかな幸せを感じる喜びと、自分のいない風景を見つめる悲しみが素晴らしく淡々と表される。

収入の少ない若夫婦なので、トレーラーハウスの中で暮らしているのだけど、安っぽいビーズのカーテンだったり、可愛らしい光り物の走馬灯のようなスタンドがあったり、出来る範囲で生活に変化を付けているところとか、母親(デボラ・ハリー)との関係も口では上手く言えなくても愛情深いと言う事も伝わる。

私は医者(ジュリアン・リッチングス)との会話も大好き。心優しい主治医は診察室で患者の顔を直視して癌告知が出来なくて、待合のソファで横に並んで告知する。
告知してからポケットのジンジャーキャンディーを渡す。そしてアンはこの医師ならと、娘たちへの18年分のメッセージテープを託すのだ。

年上の同僚ローリー(アマンダ・プラマー )は過食症なのだが、やり取りする会話のセンスが面白い。脇役必然とする演技◎

死ぬまでにしておきたい事のリストをこなして行くにつれ、アンは生きる事の喜びや、自分を取り巻く人々への愛情を改めて感じていく。自分が死んでしまった後の、今ここにある『何気ない生活』。
それは確実に、自分の不在に関わらずこれから先もずっと続いていく・・・。


サラ・ポーリーのクールな演技と、イザベル・コイシェの女性監督ならではの繊細な心理描写は、ドラマティックになり過ぎないさりげなさで、アンが自分の死によって家族や恋人に悲しみだけではなく幸せを残していったように、わたしたち観るものに涙と幸福の後味を残してくれる。
とにかくお勧めしたい作品です🌟
   
   
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