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理由のkuuのレビュー・感想・評価

理由(2004年製作の映画)
3.8
『理由』
製作年2004年。上映時間160分。

『映像化不可能と云われた原作を完全映画化』
ちゅうのはもはや原作もんの映画化につく枕詞のようなものかな。
大抵は数多くの登場人物が入り乱れる大河ドラマであり、そんまま映画化するとエピソードやキャラクターの羅列に終わってしまうから映像化不可能なんやろし、原作ファンに不評を買うんでしょう。
宮部みゆきの『理由』はどないかと観て見てみました。

初めて今作品を観たけど、直木賞を受賞したベストセラー小説の今原作が出版された当時、よく宮部みゆきの小説は読んでました。
原作がベストセラーになる前には映画化困難やと当時云われてたの覚えてます。
分厚い内容やったからと云うのもあるし、その叙述形式に問題があると思います。

物語は千住の高層マンションで起こった一家四人のイカれた惨殺事件をめぐって展開。
捜査に着手した警察を困惑させたのは予想外の事態やった。
四人は一家でもなんでもない赤の他人同士やったからです。
なぜ彼らは共同生活をしてとったんか?
ほんで、誰が四人を一夜のうちに殺り(殺す)よったんか?
やがて予想もしいひんかった事実が明らかになる新聞連載小説として発表された
『理由』は、断章形式で書かれている。
事件に興味を抱いたルポライターの女性が関係者から聞いた証言に新聞記事などの文章を組み合わせたモザイクとして、徐々に全貌があらわになってくる。
主人公と云える人物はおらず、百人以上の登場人物が次々に登場して人生の断片を見せていく。

これを映画化するんやったら、ルポライターを主人公にキャラ立てして、彼女が歩きまわってさまざまな人に話を聞いていくという形式を取るのが常道やけど。
わかりやすくはあるけど、原作の味はまったく残らへん。
せやし、監督はそないな形式を取らず、ストレートに主人公のいない二時間四十分の映画を作りあげとる。
高いテクと綿密な計算に基づいて。
次々に登場してくる人々てのは、それぞれ事件の一断片しか知らへん。
彼らは自分の知っている物語をカメラに向かって語ってく。
ポイントは時制が自由自在に変化するところかな。
語り手が事件にまつわるモノローグをはじめるうちに、彼・彼女はそんまま事件の現場に入りこみ、今度は当事者として事件を演じてみせる。
流れるような編集によって現在と過去とは違和感なくつなぎ合わされてるって感じたかな。
せやし、限られた上映時間に大量のエピソードを押しこむこに成功しとるし、また現在から過去へ話が飛びながらも語りのリズムが失われることはなかった。
見てみればなんということはあらへんねんけど、技術的におそらく高度な達成やと。
『理由』は大林宣彦じゃなきゃ出来なかった映画化なんかなぁと思いましたし、宮部みゆきのファンの一人として私的なが満足した作品でした。
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