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聯合艦隊司令長官 山本五十六 -太平洋戦争70年目の真実-のmatchypotterのレビュー・感想・評価

3.6
個人的にはこの映画は太平洋戦争の前半に生きた山本五十六にフォーカスし、戦争への流れと始まってからの経緯がとてもわかりやすいと思った。

太平洋戦争勃発前の第二次世界大戦でのドイツの勢いを背景に日独伊三国同盟が結ばれるまでの国内の民意や政治、陸海軍の鍔迫り合い。

ここを出発点にしたことで山本五十六の戦争に対する思惑や、それとは逆行しがちな周囲や世論とのボタンのかけ違いみたいなこととして、山本五十六の目指していたことが少し分かった気がする。

1941年12月8日の真珠湾攻撃。
1942年6月5日〜7日のミッドウェー海戦。
1942年8月ぐらいからのガナルカナル、ソロモン諸島での激戦。

これらの日本軍の昇り竜の如き勢いからその陰りまで。
常にその戦局の中心にいた連合艦隊司令長官、山本五十六。

戦争に勝つ、とは?
勝ってても、人が死に、国が消耗する。

相手になるアメリカを完膚なきまでに打ちのめすための国力に疑問を抱く山本五十六は徹底的に「講和」を目指して早期終戦指針。

つまり、協定を結んで平和を目指す。
相手を駆逐するのではなく、こちらの意図や希望をなるべく有利に汲んでもらい、お互いの傷が浅いうちに終わらす。

そのための真珠湾。すべてはここ。
ここで、これだけで終わらせたかった。

アメリカ艦隊の主力がここで失われたので、当時は大金星の奇襲成功と謳われたが、やはりこの映画を見ると「ここで終わらなかった」ので、成功と呼べない作戦だと思う。

そこから、ここがボタンのかけ違いの発端に。

真珠湾で徹底的にアメリカの空母を叩く。
それによりアメリカの物理的な海上からの航空機線の手段を絶たせる。そして、戦意を失わさせる。

そのはずが、結果的に空母がおらず叩けず、あれほど拘ったのに結果“騙し討ち”、奇襲。
これにより、収めるどころかアメリカに火をつけてしまう。

次のミッドウェーでも現場の読み違いでここでも空母を叩けず、それどころか真珠湾で叩けなかった空母による圧倒的な戦闘機の前にこちらの艦隊の主力艦と空母を失う。
アメリカの本気を見てしまう。

そして、資源も底を尽き始め、大和も沈み、、、と少しずつ手足をもがれていき、占領下の島々も取られてしまい、事実上の度重なる縮小、撤退。

海軍、つまり海からの攻撃も果てれば、陸軍も後ろ盾がなく、孤軍奮闘するも相手の火力と兵力の前では常に劣勢。

こうした、彼の思惑を目指すものの、僅かなところで小さな綻びができて叶わないことの積み重ねがやがて戦果を大きく変えてしまう。

国内でも、元寇、黒船、日清、日露、これまでの海の向こうとの戦は負けなし。
その奢り昂りが、慢心を招き、彼の石橋を叩くような、堅実な主張が軽視されたのかも知れない。

そもそもこれは史実に基づく映画であって、実際の山本五十六がこの役所広司のようにこれほどまでに朗らかで、切羽詰ってる時でも将棋を指したり、部下に優しく、笑顔を見せる理想の上司みたいな風体だったのかはわからない。

とは言え、彼が見据えていたアメリカと言う国のデカさ、強さ、は今となっては間違ってなかったわけで、正しくても、ここまで偉くなっても、なかなかその通りに話を通して実行するのが難しいのが戦争なんだ、と、この映画は言っている気がする。

「太平洋戦争70年目の真実」という副題が付き、東映が満を辞して、大日本帝国艦隊の代名詞の彼を描くだけあって、キャストも映像も雰囲気もただならぬ覚悟を感じる。

阿部寛、『織部金次郎』でしょーもないカフェのニイちゃんだったのに、今やとても厳格でありながら目を光らせ、魂籠る役が似合う。
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