hasse

コズモポリスのhasseのレビュー・感想・評価

コズモポリス(2012年製作の映画)
4.1
演出4
演技4
脚本4
撮影5
音楽5
技術4
好み4
インスピレーション3

人間の身体のショッキングな変容を描いてきたクローネンバーグ監督のフィルもグラフィーの中では異質な作品。劇中の大半が、主人公が車中で仕事のパートナーたちと観念的な会話を交わすシーンて占められている。

もちろん、背景の雑音を最小限に絞られた静謐な空間で登場人物らがボソボソしゃべり、時折ハワード・ショアの音楽が訪れ感情を揺らして去っていく、私の大好きな画づくりは健在。これ見たさにこの作品をセレクトしてるまであるので、そういった意味ではめちゃくちゃ満たされた。

クローネンバーグ監督の他作品に比べると、特徴である刺激的な描写は少なく、若干の物足りなさを覚える。
だが、金とセックスが人生の全ての、富豪の青年に取り付いた資本主義という病巣に深く切り込んでいく意欲作であることは間違いない。

基本、車移動の生活で、食事とセックスの時に外へ出る主人公は順風満帆な人生を送っていたが、元の大暴落によって資産を脅かされる。今まで当たり前にあったものが一夜にして溶けてなくなることで、彼の心情はかきみだされ、自暴自棄になり、「刺激が欲しい…」といって運転手を戯れに射殺したり、自分の命を狙う男の家に乗り込んでいったりする。そして、詩人の妻に何度もセックスに誘うが拒否される。

金とセックスを思うがままに手にいれてきた価値観が通用しない日が訪れた時、男はいとも簡単に生死を賭ける別の快楽に手を伸ばし身を持ち崩してしまう。
最後は希望とも絶望とも分からない尻切れトンボで物語の幕は閉じるが、これまで他者とのまともな対話をしてこなかった彼にとって、彼の会社の元社員との血の通った会話は身になったのだろうか。
hasse

hasse