stanleyk2001

貸間ありのstanleyk2001のレビュー・感想・評価

貸間あり(1959年製作の映画)
3.8
「貸間あり」1959

「あんた前の借金は?」
「わいはな、宵越しの借金は払わんのじゃ」

井伏鱒二原作、藤本義一と川島雄三の脚本。監督川島雄三。賑やかな群像喜劇。

ショバ代を払えと脅すヤクザから逃れる藤木悠。画面は猛烈なスピードで走る藤木悠と並走するショット。藤木悠の手前の人物や建物がものすごい速度で左から右へすっ飛んでいく。これは手前の通行人達を猛烈なスピードで移動させていたのだろうか?

本屋の本棚に隠れてヤクザをやり過ごした藤木悠は学生小沢昭一に「この広告の与田五郎という人物は本当に4カ国語を話す天才なのか?」と尋ねられる。

藤木悠は紹介料300円を巻き上げて小沢昭一をアパート屋敷に案内する。

このアパート、今の我々がアパートと言われて想像する2階または3階建ての四角い西洋建築とは全く違う。平屋の広大な和風建築の屋敷なのだ。多分昔は武家屋敷だった御屋敷を部屋単位で貸しているのだ。プライバシーもセキュリティも無し。

このアパート屋敷に住むのが与田五郎(フランキー堺)。翻訳、小説の代作、料理研究家、発明家なんでもござれの才人。

「貸間あり」の看板を見てこのアパート屋敷にやってきたのは妙齢の女性・淡島千景。実は朝ドラ「スカーレット」のヒロインのような陶芸家なのだった。蜘蛛の巣だらけの部屋を見て「あらなかなかキレイね。ここにするわ」と部屋に住むことを即決。

大まかな縦糸のストーリーはフランキー堺と淡島千景の恋模様。そこにアパート屋敷の個性的な住人、桂小金治、浪花千栄子、渡辺篤、益田喜頓、清川虹子、市原悦子、音羽信子らの豪華キャストのエピソードが横糸となって絡み合う。

気取らない庶民のすったもんだを描くのが俺の作風さとうそぶく川島雄三らしい賑やかな喜劇。

ユーモアとドタバタはあるがペーソスは無し。カラッとしている。

豆腐屋を営む桂小金治は「貸間あり」の看板の管理を家主から託されている。新しく間借り人が入ったと聞いても看板を下ろすことを渋る。(間借り人が目の醒めるような美人淡島千景と聞いてあっさり下ろすけど)

色々あってまた「貸間あり」の看板を上げることができてしみじみ安心する桂小金治を写して映画は終わる。

「貸間あり」は「希望あり」なのかな。どんな新しい人がやってくるだろうという希望があるということかも。

映画の中でも出てくる井伏鱒二の名訳「さよならだけが人生だ」と「貸間あり(新しい人いらっしゃい)」は対になっているということかな。

追記
子猫の名演技が光る。名のあるプロ役者猫だろう。
stanleyk2001

stanleyk2001