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暗黒街の美女のnetfilmsのレビュー・感想・評価

暗黒街の美女(1958年製作の映画)
4.2
 夜の帳の中に聞こえる微かな足音。背広に身を包んだ男はマンホールの下に首尾よく潜り込む。上ではマンホールの中から物音がすると信じられない様子で若者が話し合っている。まるでアンジェイ・ワイダの『地下水道』のような道なき道を進むと、レンガの中からピストルと3つのダイヤを取り出すのだ。ボス大矢根(芦田伸介)の身変りとなり、3年あまり臭い飯を食った宮本(水島道太郎)は、地下水道にかくしておいたダイヤを手にすると、密輸事件でドジを踏み、ビッコになって今はおでんの屋台で何とか生計を立てる弟分の三原にその宝石を渡そうとした。三原の妹亜紀子(白木マリ)は、大矢根の手下で通訳をやっている有田の情婦として自堕落な生活を続けていた。大矢根は一旦は宮本の意向を汲むと約束するが、はなから三下の三原なぞに渡す気などなかった。ダイヤを外国人密輸商と取引する日、大矢根の策略を見破った三原は宝石を飲み込み、非常階段から落ちて死んだ。

 鈴木清太郎から鈴木清順への改名第一弾となった本作は、ダイヤに目が眩んだ男たちのダイヤの奪い合いとなる。組織から足を洗い、今度こそカタギになろうとした宮本はまずは三原とその妹に楽な暮らしをさせようとダイヤを地下水道に隠していたが、大矢根は宮本の出所とその報せを今か今かと待ち構えていたはずだ。トルコ風呂で財を成した組長のさながらトルコ御殿は大きなビルとなっており、地下水道でダイヤを隠した宮本とは対照的な成功者として振る舞う。三原の妹亜紀子を演じた白木マリのキャラクターが強烈で、兄の死に散々泣いたかと思えば、米兵の水兵さんと一晩呑み明かすなど極端に情緒不安定な人物に映る。亜紀子の彼氏の有田もまた、ボスの大矢根同様に宝石の輝きに目が眩んだ狂った人物として哀れに描写される。山下ふ頭の鈴江倉庫の屋上での商談現場でのアクションも十分凄いが、クライマックスの15分間にも及ぶトルコ・ビルでの銃撃戦がとにかく凄まじい。モノクロームの陰影の中で宮本はありとあらゆるライトをピストルで暗闇にして行く。クロス・カッティングで描かれる銃撃のカタルシスと蒸し風呂状態での攻防は一体どうやって撮っているのかと思うほど、何度観ても神がかっている。
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