netfilms

アンブレイカブルのnetfilmsのレビュー・感想・評価

アンブレイカブル(2000年製作の映画)
3.7
 1961年、フィラデルフィアのデパート、黒人女性が急に産気付き、赤ん坊が生まれるのを見守りに来た医師は、お腹に赤ん坊を身篭った時から、既に両手両足が骨折していた事実を母親に知らせる。赤ん坊のイライジャは些細なことでも骨折してしまう骨形成不全症という先天的な難病を患っていた。物心付く頃には「ミスター・ガラス」と揶揄され、引きこもりがちになっていた我が子を助けるべく、イライジャの母(シャーレイン・ウッダード)はある作戦を立てる。2002年の『サイン』でも見られた2階の窓越しのフレームの中、公園のベンチには紫色の包装紙に包まれたプレゼントがポツンと置いてある。「誰かに取られちゃうよ」「それならあなたが取りに行って」13歳のイライジャ(ジョニー・ヒラム・ジェイミソン)はギブスでガチガチに固められた右手を引きずりながら、ゆっくりと目的のベンチに腰掛け、包装紙を開けると大きな箱の中には「アクティブ・コミックス」が入っていた。一方その頃、現代のイーストレイル177号列車では、憂鬱な表情をしたデイヴィッド・ダン(ブルース・ウィリス)が窓の外の景色を眺めていた。ケリーという女(レスリー・ステファンソン)に相席を求められたデイヴィッドはお腹に彫られた花柄のタトゥーに目を奪われ、静かに結婚指輪を外す。だが失礼な会話をしたことで彼女に嫌われ、席を変わられる。失意のどん底に落ちたデイヴィッドは列車が急に速度を上げたのを体感するが、次の瞬間、列車は脱線する大惨事となる。

 「Limited Edition」社からの「あなたは何日間、病気になりましたか?」という問いにデイヴィッドはギョッとした表情を見せながら、辺りを見渡す。彼自身、薄々気付いていた自身のタフネスに再びとりつかれるのは男との出会いをきっかけとする。かくして乗客131人が死亡するという悲惨な列車事故で、かすり傷一つなかった唯一の生き残りであるデイヴィッドと、幼い頃から実に54回もの骨折をして来たイライジャ・プライス(サミュエル・L・ジャクソン)とはそれぞれの対極に位置する人物として必然的な出会いを果たす。オードリー・ダン(ロビン・ライト)との夫婦関係は既に冷え切っており、息子のジョセフ(スペンサー・トリート・クラーク)との関係性もギクシャクしている。「SECURITY」のロゴの入ったパーカーを着るデイヴィッドは誰の命をも救っていないのだが、イライジャの問いかけにより、自分自身の持つ不思議な力に徐々に気付いて行く。『サイン』の信心深いカトリック教徒同様に、デイヴィッドとイライジャの名前は、旧約聖書のダビデとエリアを思わず想起せずにはいられない。堕落した救世主は預言者に出会ったことで、自身の力に改めて気付く。『サイン』のメリル・ヘス(ホアキン・フェニックス)同様に将来を嘱望されたスポーツ選手は突然神の啓示のような生々しい出来事に出遭い、信仰よりも現実を選びながら将来を強引に迂回していく。その矯正された人生こそが、果たして正しかったのかとイライジャはデイヴィッドに投げ掛けるのである。心底冷え切った夫婦関係と息子との退屈な距離感を抱えながら、男は人生の終着点を思い、破れかぶれの行動に移す。今思えば2000年代のアメコミ映画へのある種のメタ批評たり得る今作の物語が、その後のアメコミ映画のヒーローとヴィランの裏表一体の関係を意識していたのは云うまでもない。
netfilms

netfilms