angie2023

オレンジロード急行のangie2023のレビュー・感想・評価

オレンジロード急行(1978年製作の映画)
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なんて秀悦な物語なのだろう…!ずっと観たいと思っていた作品は、間違いなく裏切らなかった。最初からこの映画が「優勝」だということは分かってる。そう、わかりきっている…!テンポ感のよいオープニングは第一条件だ。爽快な音楽に乗せて、車、写真、人物がモンタージュされていく。
この映画はストーリーテリングにおいてもちろん秀悦だが、さらに素晴らしいのは、86分という短い時間、1秒たりとも退屈させない面白さで溢れている、楽しい映画であるということだ。
語りたいことがたくさんあるが、まずはストーリーの秀悦さから始めていこう。

犯罪とアメリカが交差する。この細かな脚本は、本当によくできている。老人カップルの犯罪と、海賊ラジオ青年たちの犯罪。これが交差するだけでも十分に面白いのに、さらに素晴らしいのは、アメリカという点で、異なる方向で交差しているということだ。まず、海賊ラジオ青年らは、70年代における特定のカルチャーのなかで、アメリカナイズされた消費生活を当然のように享受し、ロックンロールと自由な生活に染まっているどころか、自ら発信するという、オルタナティブ行為を展開することで、ヒッピー的な精神を思い起こすような人物像として設定されている。彼らは憧れと理想のアメリカを、もう無意識のうちに定着させてしまっている。明確に示されるのは、狭いアパートにカリフォルニアの夕日のポスターを貼り、実際にカリフォルニアへと旅立つ青年らの先輩である。この人物がいることで、青年らのアメリカ志向はかなり早い段階で示されることになるのだ。一方で、老人を取り巻くアメリカは、また様相が異なる。物語の根幹をなす、老人の犯罪動機、というよりかは、移動した先の目的は、まさにアメリカを目指した彼の思い出と対峙するためだった。アメリカというのは、ここでは実際の土地として具体的にカリフォルニアが示される。和歌山の岬から観る夕日と、カリフォルニアからのそれが一緒だという言説は、夢と理想溢れるアメリカではない。それは、密航して、戦時をくぐり抜け、そして帰れず死んだ、悲しい歴史の中で語られる。現実の中で、実際に「アメリカ村」があり、ここから多くの移民がいたというその事実は、この映画の中で非常に印象的に影を落とす。犯罪の交差点は分かりやすくとも、アメリカの交差点は、物語の最後に決定的に示されることで、一種のカタルシスを呼び起こす。

もちろん、犯罪の交差点も非常に面白い。彼らの犯罪は道と車で行われるが、最初は別々の旅路を続けるなかで、中盤にかけて、ヒッチハイクで現れた老人+子供が映った時、いつかこうなるとは予想しつつも、わかっていたはずなのに鳥肌を立てて興奮した。あー、嬉しい、嬉しい!と心が騒いだ。また、両者の犯罪は、たしかに犯罪だが、全く悪気がないという点で、非常にオルタナティブで爽快な価値観を示している。たしかに海賊ラジオは海賊であることへの自覚性から、警察への警戒はありつつ、同時にそれを放送してしまうというユーモアやおかしさがある。しかしより爽快なのは、老人カップルのほうで、彼らは「若者は優しいですね」と微笑み、悪気は全くなく、悪事とやらを重ねていくのだ。この滑稽さを非難するものは誰もいないだろう。同時にそれは警察への痛烈な風刺でもあるのだから、もっと面白い。

そして、飽きさせることのない演出やテンポ感は、これらのテーマや複雑でもある物語をしっかりと包み、唯一無二のものに昇華させている。本当におもしろかったと、何度も頷ける映画は少ない。1秒もつまらない時間がなかったと言える映画は、もっと少ない。86分であるとは思えないほど濃密だが、あっという間。まずこの尺の短さが一つのポイントだっただろう。次に、老人カップルの手口の軽快さ。サイレント風、スラップスティック風に捉える演出の妙は、大森一樹がいかに映画が好きかということを実感させられる。青年らの個性的な魅力もまた物語を彩るだろう。そして何よりも、物語を彩るといえば、まさに音楽だ。ラジオのように(実際にラジオなのだが)流れ続ける音楽は、非常にポップでテンポを生み出している。(アメリカングラフィティの影響は多分にあるだろう、だが本家がダークなものだとしたら、この映画は形式だけ抜き取った、非常に80年代的なものだ) 

本当に満足だ。最後の最後まで嬉しい展開が続く。アラカンの、キス前の「失礼します」なんて、なんて…!日本映画史を塗り替えるキスシーンだと、身震いした。
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