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タイトロープのEikeのレビュー・感想・評価

タイトロープ(1984年製作の映画)
3.3
監督はRichard Tuggleですが、彼は1979年にドン・シーゲルがイーストウッドと組んだ「アルカトラスからの脱出」のシナリオを書いた人物。
しかし演出はやはり不慣れだった模様で、実際には殆どイーストウッド氏が取り仕切った作品だったようです。
1984年の作品という事でイーストウッド氏には依然としてハリー・キャラハン刑事の印象が強くついて回っていた訳ですが同じ刑事役でも本作はかなり意図的に違ったイメージを狙った異色作と言えるでしょうか。
舞台を原案のサン・フランシスコからニュー・オリンズに移したのもジャズ好きで知られるイーストウッド氏らしい選択(サンフランシスコはダーティ・ハリーのテリトリーですしね)。

猟奇的なシリアル・キラーを追う、刑事、ウェス・ブロックがバーボンストリートの歓楽街に入り浸る内に自らの欲望に目覚め・絡め取られ、それが犯人を呼び寄せてしまう...。
このプロットから本作のテーマがSEX&VIOLENCEを要素として含んでいるのは明白。
しかしイーストウッド氏の持ち味なのか、過剰に生臭いものにはなっていないので娯楽映画としては座りが良い(笑)。
見せ方次第では1980年に公開されて論議を呼んだ「クルージング」や1987年の 「危険な情事」などとも相通じるもっと性的なイメージに満ちたサスペンス作品になる可能性もあったと思います。

個人的に本作の魅力はやはりヒロイン役のカウンセラーを演じたジュヌビエーブ・ブジョルドの起用に負うところが大きいかな。
元々はスーザン・サランドン嬢に矢が当たっていたそうなのですが彼女は本作の性と暴力の扱い方に危惧を覚えて断ったそう。
このヒロイン役、実はそれほど大きくフィーチャーされている訳ではないのですがブジュルド嬢の何ともとらえどころのない、形容しがたい性的魅力が本作ではSEXの持つミステリアスな側面と巧くはまっている気がします。

サスペンス映画としては今現在の感覚からすれば物足りなさも覚えるかもしれませんがイーストウッド氏らしい節度を感じさせる作品になっており後味も悪くないですね。
こうした小品をきっちりとコンパクトに娯楽作としてまとめる手際の良さは80年代のイーストウッド「監督」の得意とするところであり、この頃の作品にもっと脚光が当たって欲しいなぁ。
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