鰐淵晴子・津川雅彦主演版。鰐淵の踊子は顔立ちが派手すぎる感じだし初のカラー版ということで少々衣装頑張りすぎの気もするが、トーキーではこれが『伊豆の踊子』のベストではないか。痛ましくやるせない、銭金と被差別の女たちのドラマとして組み直した田中澄江の脚本が見事で、そのリアリズムを川頭義郎が清潔な叙情で端整に描いてみせた。序盤で津川が鰐淵を苛めるエリートに自分の未来を見るのと、終盤で鰐淵が金策に独り夜の街を流して歩く母の桜むつ子に自分の未来を見るのと、2つの描写が呼応して、その深い大きな溝に胸がつぶれる。