Eirain

渚にてのEirainのレビュー・感想・評価

渚にて(1959年製作の映画)
3.4
原作は、ネビュラ賞も受賞したネヴィル・シュートの名作。祝・Blu-ray化ということで、購入して鑑賞。

核戦争が起こってしまった後の世界。北半球は放射能汚染により息絶え、生き残っているのは南半球のみ。その南半球も放射能汚染が着実に進んでおり、人類の滅亡は目前まで迫っていた。
そんな中、核戦争から生き延びた米国潜水艦ソーフィッシュ号が、オーストラリアのメルボルンに入港する。メルボルンで生活することとなったソーフィッシュ号のタワーズ艦長は、美しい女性モイラと知り合う。モイラの好意に気付くものの、本国で戦争の犠牲となった妻と二人の子供が忘れられず、一線を越えられないタワーズ。
そんな中、アメリカから発せられる謎の無電を傍受する。死滅したはずのアメリカに生存者がいるのか。それを確かめるため、ソーフィッシュ号はアメリカに向けて出港する―――。

原作を読んでから数年経っており、ぼんやりとしか記憶してなかったが、本作を観てだいぶ記憶がよみがえった。細かい設定の違いはあるだろうが、感触としては概ね原作どおり・・・だと思うのだが、Wikipediaを覗いたら「さまざまな点が原作から大幅に変更されたため、シュートには不評だった」とのこと。原作者の不評を買うほどの変更点がどこだったのか、これは原作読み直さないと分からないな。

隕石が降ってくるわけでもなく、謎の生物が襲撃してくるわけでもない。ただ緩やかに逃れられない「死の灰」が迫ってくる恐ろしさ。死を受け入れ、静かに最期の時を迎える人々。実際はもっと街中パニックになるのだろうが、"運命"を受け入れるしかない状態となれば、この静かさも違和感はない。作品として、抗おうとしてパニックになる時期を飛ばして、逃げ延びることを諦めて穏やかに最期を迎えようとする姿を描いたと考えれば、十分理解できる。

冷戦の真っ只中に発表された本作(小説:1957年、映画:1959年)だが、2023年の今も核戦争の脅威は続いている。核がもたらす絶望を、世界中の人々が認識すべきだと思わずにはいられない。
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