無名のひと

真珠の耳飾りの少女の無名のひとのネタバレレビュー・内容・結末

真珠の耳飾りの少女(2003年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

1665年オランダが舞台。
グリートは、病に罹ったタイル職人の父親に代わりに、家計を支えるため使用人としての職を得る。
そこは画家フェルメールの屋敷。
フェルメール夫人に挨拶をしようとするが、勝手に話しかけたことを窘められる。
アトリエの掃除を命じられ、そこにあるフェルメールの作品の美しさに思わず見とれてしまう。
地下に部屋を宛がわれたグリートは、フェルメール夫妻の夫婦喧嘩を聞いてしまう。
フェルメールがなかなか絵を完成させられないため、宝石を売って生活していることを夫人に責められているようだった。
夫人はかつて、怒りに任せてフェルメールの絵を切り裂いたことがあり、以来アトリエには立ち入らないという。
夫人は男の子を出産し、絵の完成祝いを兼ねた出産祝いが行われることになり、グリートはフェルメールのパトロンのライフェンに招待状を届けに行く。
グリートは使用人から、以前フェルメールのモデルになった女性が妊娠させられたことを聞かされる。
グリートがアトリエを掃除しているとき、窓の汚れが気になって、夫人と姑に光が変わってしまうが窓の掃除をしてもいいかと聞く。
「いちいち聞かないで」と返す夫人。
明るくなりつつあるアトリエで掃除しているグリートを、フェルメールが観察していた。
間もなくフェルメールは新しい絵に着手し始める。
姑曰く、特別熱が入っての創作だという。
アトリエを掃除中、フェルメールが雲の色は何色だとグリートに問う。
最初は白色だと思っていたが、よく観察してみれば青や灰色などの色が混ざっていると答え、フェルメールは満足そうな顔をするのだった。
それからフェルメールは、グリートに絵の具の調合を教えるようになる。
フェルメールは、グリートの寝床をアトリエから行き来しやすい屋根裏部屋に移す。
宝石を盗まれることを懸念した夫人に、夜は鍵をかければいいと言い含めるフェルメール。
グリートは精肉店の息子のピーターと距離を縮め、キスをするようになる。
グリートはフェルメールが描いている椅子が構図的に不要だと思い、こっそり椅子を移動する。
次に絵を見たとき、フェルメールの絵から椅子が塗りつぶして消されていた。
ある時、夫人が鼈甲の櫛が失くなったと騒ぎ、グリートを疑う。
誤解にさらされ、「助けて」と呟くグリートに、フェルメールは家中を探して娘のコルネーリアの部屋から櫛を発見する。
コルネーリアからの嫌がらせだったのだ。
グリートを気に入ったライフェンは、グリートを集合絵の給仕係のモデルにするようにフェルメールに提案する。
それはあっという間に町中で噂になった。
以前モデルになった使用人が妊娠させられたことを町中の人が知っており、グリートもそうなるのではと噂しているのだ。
しかしフェルメールは、グリートを集合絵のモデルにではなくグリートのみを描くという。
姑はグリートに、絵のモデルことになることは夫人に内緒にするよう金を渡すのだった。
食事の支度をしているグリートを、じっと見つめるフェルメール。
嫉妬した夫人はグリートを部屋から追い出すが、グリートがいなくなるや否や、フェルメールはアトリエに引っ込んでしまうのだった。
モデルとして座っているグリートに、何度も唇を舐めさせるフェルメール。
フェルメールはグリートに、夫人の真珠の耳飾りをつけてモデルをするように要求する。
夫人に対する遠慮と、ピアスの穴が開いていないためにグリートはこれを拒否。
しかし夫人の留守中に姑が現れ、「娘がいない間にやって」と真珠の耳飾りを渡すのだった。
フェルメールはグリートの耳にピアスの穴を開け、執拗に血を拭う。
そしてフェルメールは耳飾りをつけたグリートをモデルに絵筆を振るうのだった。
その夜グリートはピーターのもとを訪れ、ふたりは結ばれ、ピーターからプロポーズされる。
グリートがアトリエを掃除しているとき、フェルメールがグリートと浮気していると夫人が泣きながら怒鳴り込んでくる。
絵を見せてほしいとの夫人の要求を却下するフェルメール。
「私の耳飾りをつけたの?あんまりよ」と泣く夫人に折れて、フェルメールは画布を取り払った。
絵を見た夫人は「汚らわしい。なぜ私じゃないの」と言うも、フェルメールは「君には理解できない」と返す。
夫人はグリートに出ていくよう命じる。
家に戻ったグリートのもとに、使用人が訪れ、絵の具で封をした包みを渡す。
中は、青い布で包まれた真珠の耳飾りだった。



フェルメールの代表作『真珠の耳飾りの少女』を題材に描かれた映画。
どこをどう切り取っても絵画のように美しい映像の数々。
フェルメールの周りには、本当の意味で絵画を理解しているのはグリートのみ。
夫人が絵を切り裂いたなんて、無理解の最たるところ。
アトリエの光が変わるかもしれないから窓を拭いていいのか尋ねるグリートに対する返答からでもよく分かる。
絵を描くことを生涯の仕事としているフェルメールにとって、絵画を理解しない妻と理解する使用人、グリートを特別視するのも分からなくもない。
加えて、グリートはフェルメールの創作意欲を刺激する存在でもあった。
使用人を孕ませたり、出産後立て続けに夫人を妊娠させたり、夫人が嫉妬していることに気づいていながら配慮が足りない。
絵の具の調合や絵を描くことを通して、グリートとフェルメールが特別な関係を築いていく様は、しっとりとして下品でない色気が漂っていて好ましかった。
グリートにとってのピーターという存在は、フェルメールへの想いに対するストッパーのようなものだったのかと解釈している。
最後、シーリングスタンプの蝋の封の代わりに絵の具が用いられているのがなんとも素敵だ。
耳飾りを贈ったのは、夫人はもう因縁の耳飾りはいらなかっただろうからフェルメールに投げつけでもしたんだろう。
それを金に変えるでもなくグリートに贈ったのは、フェルメールとしてはふたりの思い出を残して行きたかったのか、捧げられない代わりの品物だったのか。
グリートがフェルメールをどう見ていたのか、フェルメールがグリートをどう見ていたのか、絵を見ればよく分かる。
夫人が嫉妬を極めるのも仕方がないと思う。
唇を何度も舐めさせるシーンはどこか官能的だったけれど、唇の瑞々しさを表現したかったからでもあるらしい。
情愛がとてもきれいに描かれていた作品だと思う。
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