幽斎

Jの悲劇の幽斎のレビュー・感想・評価

Jの悲劇(2004年製作の映画)
4.0
原作はIan McEwan著「愛の続きEnduring Love」ブッカー賞確実と言われた秀作。氏は人間の不条理な愛情を描く作品が多く、どれも一読に値する。物語は別次元の格調高い愛情を描くが、映画ではサイコ・サスペンスな仕上がりで、原作ファンは「はぁ?」かもしれないが、映像化でこうも違うテイストに成る作品も珍しい。Roger Michell監督はコメディが主戦場だが、このサスペンスが最も出来が良いのは皮肉なものだ。

冒頭の気球のシーンは何度見ても素晴らしい。イギリスらしい田園風景が美しく、其処に赤い気球が飛んで行く。ヴィジュアル的に優れたオープニングで、まるでその場に居るような臨場感、特に音楽を廃した演出はこれだけでも見る価値ありと手放しで褒めたい。

主人公Daniel Craigは007に成る2年前の作品、共演は「マイノリティ・リポート」のSamantha Morton、後のQであるBen Whishaw、そして何と行ってもRhys Ifans、「ノッティングヒルの恋人」に出てたとは思えない怪演ぶりが素晴らしい。彼が配役された事で、作品のカラーが決まったと言っても過言ではない。

この作品は原作通り「クレランボー症候群」を描いてる。簡単に言うと「私は彼に愛されてる」と思い込む妄想障害の事で女性、特に30代後半から多いのが特徴。ストーカーと違うのは、これが立派な精神疾患で有る事、相手が拒否しても自分の脳内ではそれが理解できない状態で、原作に詳しい解説が書かれてるが、本作ではRhys Ifansの演技で全てが説明できる位、気持ち悪い(褒めてます)。

些細な出来事が少しずつ歪曲化し、やがて後戻り出来ない秀逸なサスペンスへと変貌していく。登場人物が少ない分、綺麗な風景で舞台を見ている様な作劇は、まさにサイコ・スリラーですが、ラストの解釈は見る側に委ねられてます。このラストシーンが秀逸で、得体のしれない狂気が潜んでる訳ですが、記憶に残るシーンでも有ります。

ホラー要素は有りませんので、お行儀の良いサスペンスだと思って観て下さい。
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