tetsu

市川崑物語のtetsuのレビュー・感想・評価

市川崑物語(2006年製作の映画)
4.0
岩井俊二監督作品を追いたくなったので、去年の夏、鑑賞。


[概要]

映画監督・岩井俊二さんが巨匠・市川崑さんの半生を辿るドキュメンタリー映画。若き日の監督の写真や過去作の映像も盛り込みつつ、多大な影響を受けた岩井監督が、自らの視点で巨匠の人生に迫っていく。リメイク版『犬神家の一族』の公開に合わせて製作された。


[感想]

様々な技法で映画作りを試みる隠れたチャレンジャー・岩井監督の異色ドキュメンタリー映画。そして、今回は、彼の作品の中でも、最も斬新な一作と言えるのかも……。

画面に映し出されるのは、市川監督の写真と、ナレーション代わりの白抜き明朝体のみ。

さながら、曲入りスライドショー、もしくは、YouTubeのゴシップ動画かと見間違う演出でありながら、そこは、さすがの岩井監督。

縦書き・横書きを駆使した文字の市川監督オマージュに始まり、スピード感のある進行、さらには、岩井監督自身が持つ巨匠への愛も重なり、後半に進むにつれ、次第に目が離せなくなってくるのが素晴らしかったです。

とりわけ、終盤、『犬神家の一族』の話題になった時には、文字という表現のみにも関わらず、テンションが上がりまくる岩井監督の姿が垣間見え、自然とこちら側まで笑顔になってしまいました。

少年期の頃の様子や、アニメーター時代の貴重なエピソード、共に映画制作に取り組んだ脚本家の妻・和田夏十との秘話や、岩井少年の市川作品との出会いまでw

岩井監督のテンポの良いカット割りや、様々な演出の原点が巨匠にあることを知り、市川監督作品を追いたくなりましたし、日本映画の意外な系譜を知ることが出来た点で、かなり実りのある作品でした。


[終わりに]

作家でもある岩井監督が、なぜ、本作を小説ではなく、映画という表現で制作したのか。

そこには、色々な大人の事情もあるとは思うのですがw、結果として、映像メディアが持つ強度を体験することが出来る貴重なフィルムになっていたと思います。

好き嫌いがハッキリ分かれる作品なのは間違いないですが、個人的には、岩井監督の隠れた代表作としてオススメしたい作品でした。
tetsu

tetsu