うめまつ

トラスト・ミーのうめまつのレビュー・感想・評価

トラスト・ミー(1990年製作の映画)
4.8
目覚めて初めて齧る果実のように瑞々しい。一口頬張れば、全器官が起き出して身体が隅々まで喜びで満たされるのがわかる。クリアなのに何処か侘しい映像も、青白い光と影のコントラストも、自由で抜け目のないアングルも、身を委ねたくなるミニマムな音楽も、濃密で切れ味鋭い台詞も、有機的に変化して行く主人公も、それを体現するに相応しい衣装も、何処を切り取ってもあまりにも鮮烈に好きだし、毎秒好みのツボを押されまくるので「面白い」というより「気持ち良い」がしっくりくる。

青い口紅/テレビは阿片/引き出しに手榴弾/図書係の眼鏡/若さと愚かさと羞恥/ネイプとナイーブ/書類鞄とパイプ/誠実だから危険/信頼の証/語彙辞典と花束

行き場のない孤独が画面の中を埋めつくし、鮮やかな色も光もその清潔なメランコリーを際立たせている。エドワードホッパーの絵から受ける印象に似ている。何処にでも行けるし何にでもなれる自由があるのに、開放された大きな窓の前から一歩も動けない。自分を信じる事は見ず知らずの神を信じる事より困難だ。だけど自分を丸ごと受け止めてくれる人が現れた時目の前の景色は一変する。「Trust me/Trust you」それは最も力強い愛の言葉なのかもしれない。信頼はダイヤモンドより固く美しく胸の奥で光る。
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