「マダムと女房」でトーキー映画の先陣を切った五所平之助監督が、再びサイレンに回帰し誰もが知る文芸作品に挑戦した傑作。伏見晃が内容を大幅に増補して出来た「五所の伊豆の踊子」であり、踊子田中絹代の兄小林十九二が道楽者で身を落とし旅芸人になった経緯にも踏み込んだ人情喜劇の優れもので、後発の青春映画とは一線を画す。天性の映画女優の才を持つ田中の感性の良さを存分に発揮させた五所監督の演出と、小原譲治のカメラワークの見事さで、久々のサイレントだがすっかり魅了されてしまった。日本サイレント映画の極致に達したのではないか?