Kientopp552

忍びの者のKientopp552のレビュー・感想・評価

忍びの者(1962年製作の映画)
3.0
 本作の原作を書いたのが、村上知義である。筆者が思っていたのは、この「大衆作家」の作品、ただの「娯楽」小説と思っていたのであるが、こちらを調べてみると、本作の原作が1960年の作品で、しかも、これが、新聞連載小説として、日本共産党の機関紙『赤旗』の日曜版に1960年から62年まで載せられていたものであると言う。単なる「娯楽」小説が、どうして共産党の機関紙の連載小説になり得たのか。そこから、本作の「不思議」を紐解いてみる必要があろう。

 すると、戦前の検閲では、「石川五右衛門は共産主義者である」という。この検閲当局の判断は、今では意外ではあるが、それ程、戦前における検閲が厳しかったことの証左でもある。「義賊であれば共産主義者」と、当局がそう判断する程までに、体制内における「異端者」に「危険な臭い」を嗅ぎ取っていたのである。となれば、本作における、石川五右衛門と呼ばれる忍者が、当時の権力に抗して、最後には、自らの幸福を求める姿が、なるほど、忍者-石川五右衛門-民衆的存在-赤旗日曜版、というラインに繋がるのである。こう見ると、織田信長が単なる暴力的で残虐な権力者と描かれるのも無理はなく、この点でも「筋」が通っていると言える。
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