菩薩

ひかりごけの菩薩のレビュー・感想・評価

ひかりごけ(1992年製作の映画)
3.9
大岡昇平『野火』、野上弥生子『海神丸』と共におそらく日本3大カニバリ小説と言って差し支えない武田泰淳原作の実写化、つか3本とも映画化されてんだよな、結構不思議。いかんせん舞台が北海道だけあって田中邦衛はほぼ黒板吾郎だが、文字通り人肉を、それも切り取ったばかりのそれを生のまま文字通り「もぐもぐ」と喰らう三國連太郎の怪優っぷりが凄い。ほぼ原作に忠実で、後半は裁判シーンも入るが、その裁判長役が笠智衆、ちょっと迫力に欠け肩の力が抜けるが、その分は井川比佐志が十分にカバーしている。戦時下の事件とあって当初は軍神の様な扱いを受けた船長も、人の屍肉を喰らってまで生きながらえたとあって、一転極悪非道の犬畜生にも劣る罪人と印象を変えられる。絶体絶命の極限状態において積極的に喰うことを選択する者、戸惑いながらもその肉を喰らい後悔の果てに死にやがて喰われる者、喰うことすらせずにみすみす死に絶える者。罪とは一体なんであり、罪人とは一体なんなのか、人は皆罪を背負って生まれ罪を重ねて生きているのにそれすらも自覚が無い人間に人間が裁けるのかと、かなり直接的なメッセージ。昨今様々な場面で当事者性を欠いた一方的な断罪を見かけるが、「正しさ」を見つめる熊井啓の視線は現代にも通じる力強さを持つ、それこそ「我慢」が強いられる今に。ちなみに若干のネトウヨ発狂案件、和人のアイヌに対する一方的な蔑視意識については省かれている様な。
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