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レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまでのyuumのレビュー・感想・評価

4.4
結論から述べると、この映画の妻はサラリーマンではなくギラギラした起業家と結婚していれば幸福になれた、かもしれない。けれど彼女は安定こそあれどやりがいはない仕事をする、「パーティーで一度だけ笑わせてくれた」男性と妊娠がきっかけで結婚する。ありあまる野心を持てあました彼女は、悲劇的な最期を辿ってしまう。

「レボリューショナリー通り」という通りの名前に似つかわしく、ウィーラー夫妻の同じストリートに住む人間とは何か違う、どこか特別な人間だという矜持は、ケイト・ウィンスレット演じる妻エイプリルがこれまでの無味乾燥な生活に終止符を打ち、いつかパリに住むという忘れられていた夢を叶えるために移住を提案するまではエネルギッシュな効果を発揮していた。けれどもディカプリオ演じる夫フランクの昇進と第三子の妊娠が発覚してからパリ移住計画は頓挫し、道半ばにして破れた夢と行き場を失った野心は却って夫婦を苦しめた。

今までの生活を捨てて新しい国で人生を再スタートさせることに1番意欲的だった妻が、夫と何度も激しく押し問答し、結局願いが聞き入れられずに最後はパートナーの了承を得ずに一人で中絶するまでの過程は見ていて本当に辛い、というか正直なところ胸糞が悪い。だから「非常にイヤな◯◯◯女。夫のディカプリオに深く同情」と思う人がいるのは納得できる。この夫は妻と子供、家族をトッププライオリティに置く愛情深いキャラクターだ。人生への虚無感から脱却するために試みた、数回にわたる意味のない浮気さえ除けば。

けれど私はケイトを気狂い女だと言い切りたくない。確かに自分の意見を通そうとするpushyなところはあるし、隣人とのカーセックス不倫、安全とされる妊娠12週目を過ぎた後の中絶という誤った道を選ぶ点は残念極まりない。それでもずっと夢を信じ、人生を諦めずに彼をエンパワーメントした彼女は決して悪女では無かったと思う。だってパリでもう一度人生を取り戻そう、私が働くから貴方は働かなくていいのよ、と本気で言ってくれるパートナーは一体どれくらい居るのだろう。彼女の提案を「現実的じゃないね」の一言で終わらせる人は、夢見ることを忘れてしまっている気がする。

また、「自分でもずっと死ぬほどくだらないと思ってる仕事を、何故貴方は続けるの?」と彼女が繰り返し問い続ける、シンプルかつ辛辣なこの質問の真理を確かめるかのように、心を病んでしまった隣人の息子の元数学者というキャラクターが登場する。精神異常者の彼は普通の人とは認知が異なるので、世の中に溢れる全ての欺瞞を見過ごさずに鋭く指摘する。だから夫婦がそれぞれの虚無と絶望に向き合い、人生を再スタートさせる時には森の散歩で心通わせるが、夫がパリ行きを中止し、今まで通りの同じ日々を送ることが決まった夫婦と夕食を共にしたときは、まるで「臆病で、嘘つきな奴らめ!」と言わんばかりに夫婦二人にグサグサと言葉のナイフを突き立てる。真理は時に残酷すぎると思う。

このレビューのはじめに私は、妻が起業家と結ばれていればもう少し明るい未来が待ち受けていた、と書いた。けれど改めて映画を振り返ってみると、エイプリルが外で働くことに対してメラメラと意欲的なことから、もし彼女の生きていた50年代に男性と対等な就労の機会があれば、彼女には結婚生活に縛られない別の人生があったのしれない、と思い直した。ただ人生にタラレバは存在しない。だけど間違いも決して存在しない。だからこそ一つ一つの選択を大切に、楽しんで選びたいな。エイプリルはどうだったのだろう。映画は色んなことを気づかせ、考えさせてくれる。

余談。隣人の妻役のキャスリン・ハーンはジェニファー・アニンストン主演のコメディ映画『なんちゃって家族』でも少しズレてるお人好しな妻役を演じていたけど、もしかして彼女の鉄板役なのかな?今作でもケイト・ウィンスレットを引き立てるような三枚目に徹していたけれど、彼女が夫とハグする最後のシーンでこの人美人!と気づいてハッとした。横顔が綺麗ね〜
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