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マリー・アントワネットのnetfilmsのレビュー・感想・評価

マリー・アントワネット(2006年製作の映画)
3.8
 Gang of Fourの『Natural's Not in It』が流れる中、オーストリアの皇女マリア・アントニア(キルスティン・ダンスト)はバスタブの中で従者にピンクの靴を履かせてもらっている。傍ら置かれたカラフルなタワーケーキが少女の好奇心を満たす。1769年、オーストリアの皇女マリアは、オーストリアとフランスの同盟関係強化の一策として、母マリア・テレジア(マリアンヌ・フェイスフル)の命によってフランス王室に嫁ぐことになった。犬のモップスを抱えながら、白馬が数頭連なる馬車でフランス国境地帯に停まった車、マリアはここで王妃としての契りを交わす。待ち構えるのはマリアの美貌を楽しみにするルイ15世(リップ・トーン)の姿、フランスの服に着替えた彼女は遂に結婚相手であるルイ16世(ジェイソン・シュワルツマン)と初対面を果たす。馬車の中、従者にルイ16世の肖像が描かれたペンダントを見せる彼女の姿は、14歳の少女らしい無邪気さに溢れる。新婚初夜、多くの従者たちに見守られる中、キングサイズのベッドの緞帳を閉じる。夢にまで見た初体験の興奮、だがどういうわけかルイ16世は同じベッドに寝ていても指一本触れようとしなかった。寂しさを紛らわすようにマリアは浪費に楽しみを見出し始める。

 オーストリアに母親と兄を残し、遠く離れたフランスに嫁いだ少女は、前作『ロスト・イン・トランスレーション』のシャーロット(スカーレット・ヨハンソン)同様に、異国での孤独に悩まされている。フランスに連れて来た愛犬とは引き離され、24時間衆人環視のようなプライベートのない空間、娼婦上がりの国王の愛人デュ・バリー夫人(アーシア・アルジェント)との確執。中でも一番心を傷付けるのは、政略結婚の旦那が彼女に夜毎、関心を示さないことに他ならない。現代で言うところのED(勃起不全)の症状を患う夫との生活の中で少女は疲弊し、服装はどんどん派手になって行く。Bow Wow Wowの『I Want Candy (Kevin Shields Remix)』が流れる中、ケーキやタルトをほおばりながら靴やドレスを試着するマリアの姿は、冒頭のオーストリアでの少女時代に退行していくかのように映る。だが永遠の孤独に見えた彼女の前に突然、少女の孤独を癒すスウェーデンのフェルセン伯爵(ジェイミー・ドーナン)が現れる。インモラルな仮面舞踏会、飛び交うシャンパンとセレブリティの退廃、アヘンを回す少女の姿を男は狼のような獰猛な目で見つめる。旦那のルイ16世よりも激しく抱かれた女は永遠よりも一瞬に生きる。『ヴァージン・スーサイズ』に続いてここでも、少女のイニシエーションの主題に朝陽が昇る。娘の誕生からあれだけ派手だった女のファッションは質素になり、自然回帰を唱えたルソーとも共鳴する。映画はマリー・アントワネットの最期を描くことを放棄したまま、The Cureの『All Cats Are Grey』によりふいに切断される。永遠よりも刹那に生きた王妃の姿に涙腺が緩む。
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