レインウォッチャー

マリー・アントワネットのレインウォッチャーのレビュー・感想・評価

マリー・アントワネット(2006年製作の映画)
3.5
ごっどせーぶざ…?

S・コッポラ監督の長編3作目は、なんと歴史モノだった。
『VS』『LIT』(※1)と、どちらかといえば小作りでインディー感の強い作家だったのが、ここに来て伝記、しかもヴェルサイユ。それは大いにça va?て感じなのだけれど、蓋を開けてみれば納得の一本だった。

確かに、規模が文字通り桁違い(製作費は当社比10倍)になっているため、画面はめちゃくちゃ派手だ。とはいってもそれを大作歴史ロマン的な方向ではなく、登場するカラフルパステルマジカルなファッション、インテリア、フード&スイーツに費やしているところが《ガーリー》で一時代を築いたソフィアお嬢らしいし、何よりマリー・アントワネット(一般的なイメージ上での)らしい。

そして、今作ではマリー・アントワネットという稀代のアイコンを「一人のティーンエイジャー」として置き直したのだ。
政略結婚のためオーストリアからフランスへ嫁いできた時のマリー(K・ダンスト)は14歳(※2)。ともすれば「そんな時代だったから」でスルーされがちなその事実を、まっすぐ捉えて等身大の青春映画らしく仕立てた。

だから、『VS』『LIT』ともそのまま地続きだ。
マリーという個人が育ち確立されるよりも早く、妃・妻・母といった女の《役割》に縛られる生きづらさは『VS』を。異国に放り込まれ、カルチャーも人も、そして性すらも拒絶されて孤独なベッドで過ごす夜は『LIT』を、それぞれ彷彿とさせる。

どいつもこいつも口を開けば世継ぎ世継ぎ世継ぎ、廊下や食卓では陰口と噂話ばっかり。なんですかここは宝塚ですか?
ここにおいて、200年以上前のヴェルサイユは現代の少女たちのベッドルームと繋がって、マリーの享楽的な行動の数々を、充満したフラストレーションの捌け口だったと自然に共感させる。

それゆえ、今作のサウンドトラックのテーマは《パンク》なのだ。
何せ開幕からギャング・オブ・フォー!ざくざくしたギターの刻みにいきなりひっくり返るし、舞踏会ではワルツなんて流れず、代わりにニュー・オーダーが支配する。その他にも、80'sパンク/ニューウェーヴ/ポストパンクのプレイリスト(※3)が全編でかかりっぱなし。

『VS』では70'sのポップス、『LIT』ではシューゲイザーやインディロックなど、作風・背景に合わせてサントラに並々ならぬこだわりを見せてきたソフィアお嬢。今作ではその手法がより一段階洗練されて、いわゆる異化効果のようなインパクトを与えることに成功しているように思う。
当然、当時のヴェルサイユにはマルコムもヴィヴィアンも居ないけれど、マリーの心象を想像すると、彼女の寝室にこそこの音楽を届けたかった…そんな願いに思えるのだ。

正直、物語映画としてのバランスは良いとは言えない。特に後半は急にバタバタし出して、年表上のイベントのダイジェストみたいになってしまい、マリーや夫ルイの立場・心情の変化がうまく伝わらず置いてけぼりにされる。飽きたんすか?
ただ、それもある意味マリー・アントワネットらしいっちゃらしいし、ラストカットに込められた「夢の跡」のイメージは胸に残る。古今東西、色々なアントワネット像が描かれてきたけれど、忘れるべきでない一葉であるとは言えるだろう。

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※1:
『VS』=『ヴァージン・スーサイズ』
https://filmarks.com/movies/23149/reviews/83163508
『LIT』=『ロスト・イン・トランスレーション』
https://filmarks.com/movies/15069/reviews/83153442

※2:当時のダンストさん24歳、いや流石に無理あるくない…?ってのは致し方なしだけれど、彼女は瞬間瞬間で少女に見えたりおばあちゃんに見えたりと不思議な魅力とえろさのある人であることも確か。
実際、年齢以上の様々な仮面を強いられたマリー・アントワネットというキャラのイメージにはハマってたんじゃあないだろうか。

※3:そんな中に紛れ込んだエイフェックス・ツイン『Avril 14th』の煌めきも見逃さ(聴き逃さ)ないで。