全くわからなかった。
母が目の前で不貞を働いたことが、いつまでもトラウマのように残る。だが、そのとき見た母の乳房が目に焼き付いて、乳房に異常な執着を見せるマザコンとなるのだが、これだけのコンプレックスで破壊衝動までどう繋がるのかわからない。
吃りで辛い日々を送ったのだろうが、少年時代も、軍隊時代も、それほど辛い日々だったことは描かれないし、伝わらない。
だいたい金閣寺に住み込みで大学まで行かせてもらって、苦学生でもないし、割と恵まれた学生が悪い友だちに唆されてある程度だらしなくなっていくだけ。
有為子という初恋の人への思いも、2人の過去に何があったのか曖昧で、それがインポテンツの原因になっているのかも曖昧で、わからない。
そもそも、父親が言う「金閣ほど美しいものはない」という幼少期から刷り込まれた言葉で、なぜ金閣寺が権力や体制の象徴となって破壊衝動の対象になっていくのかもわからない。
主演の篠田三郎はさまざまなコンプレックスを抱えた男が、少しずつ精神を病んでいき、金閣寺に放火するまでを演じるのだが、最後までその瞳はあどけなく、男が転落していく様子を演じられたかは甚だ疑問だ。
監督も、この監督の作品は『本陣殺人事件』しか見ていないが、繰り返す中途半端なポルノ映画まがいのインサート、レフ板を使ったチープな効果、ラストシーンに至っては「あれでいいの?」と呆気に取られた。
実は原作未読なので、原作自体が意味不明なのか、監督・主演が力不足なのか判断がつきかねるが、この映画だけ見た感想は、ひとかけらも共感できないわけのわからない作品だった、ということだけだ。
三島由紀夫の傑作と言うのだから、いつか原作は読んでみよう。