CANACO

御法度のCANACOのネタバレレビュー・内容・結末

御法度(1999年製作の映画)
3.3

このレビューはネタバレを含みます

1999年公開の大島渚監督作品。『マックス、モン・アムール』(1987)以来13年ぶりにメガホンを取ったことで話題に。『戦メリ』から数えると17年ぶりの本作は、監督の遺作となった。3度目の鑑賞。

松田龍平くんのデビュー・初主演作。ビートたけしさんが土方歳三役で、『戦メリ』に続き坂本龍一さんが音楽を担当している。本作を一言でいえば、新選組のBLもの。裕福な木綿問屋・越後屋の三男・加納惣三郎18歳が、ずば抜けた美しさと剣の腕により曲者揃いの新選組をかき乱す物語。

原作があり、司馬遼太郎の短編集『新選組血風録』掲載の「前髪の惣三郎」と「三条磧乱刃」を合わせてアレンジしている。脚本も監督が担当しているが、小説の台詞をそのまま使っている箇所も多く、再現度が高い。『新選組血風録』は、短い文体でリズム良く進むだけでなく「見てたの?」と錯覚するほど描写力がある司馬氏の代表作のひとつなので、手を入れるのが難しかったのかもしれない。

“本番一発ワンテイク主義”といわれた大島監督。雑誌『週刊SPA!』にかつて掲載された監督インタビューによると、「もう一回やらしたほうがよくなると思っても、それを我慢して元のままにしておいたほうが、最後の総合点としてはよくなる」「演技力は問題にしてませんからね。普通、俳優さんが演技力と思っているものは、まあ、邪魔ですよ」「ボクが一番嫌いなものは、言葉で言うと媚。“ひらひら”と言ってるんですが(中略)ボクはひらひらが一切嫌なんですよ」と発言していて、監督への理解に役立つ。「これでいいの?」と感じる棒読みのような台詞回しが多くても、そこから滲む地の人間を愛しているということか。

そういう意味でいうと、山﨑丞役を演じたトミーズ雅さんが、男色でもなんでもないのに上層部と加納に振り回され、ほんの僅かだけ“その気”が湧くのが面白い。原作通りで、司馬さんは笑わせようとしたわけではないかもしれないが、加納に女性を教える任務のはずが加納に迫られるトホホ感。その状況に対して山崎に指示した土方(たけし)も笑ってしまうのも、素に近い感じで面白い。何度見ても一番印象に残るのはそこ。

映像が暗く美しいので、本当はひたすら妖艶に展開し、男性全員が狂気をはらんでいく、ドラクエの全員「こんらん」みたいな状況が見たかったが、井上源三郎役の坂上二郎さんとトミーズ雅さんがかなり“おとぼけ”キャラなので、張り詰めた糸を緩めてしまう、ぶれてる感じがあった。「前髪の惣三郎」だけでは1時間ももたないけど、少なくとも「三条磧乱刃」は混ぜないほうがよかったかもしれない。自分的にはキャスティングに違和感はなく、このキャストで暗い新選組、もしくは笑わすほうに振り切った新選組が見たかった。

大島渚監督は、世間を騒がす社会的問題作のほか、性愛に関しても『愛のコリーダ』(1976)で阿部定事件、『戦メリ』で同性愛、『マックス、モン・アムール』で妻をチンパンジーに寝取られた話(笑)を扱うなど、常識にとらわれない激しいテーマを撮り続けた人。
自分の発言に一切オブラートをかけないTHE昭和男子であった監督は、討論番組でも怒り、怒鳴っていた。自身の結婚30周年パーティで、(泥酔した)スピーカーの野坂昭如さんにグーで殴られ、マイクで殴り返したエピソードは今でも伝説。エキセントリックでアウトローな人だったとは思うが、その根底にあるのは人間という動物への愛で、彼の映画作りは人間讃歌そのものであったと思う。
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