平田一

パブリック・エネミーズの平田一のレビュー・感想・評価

パブリック・エネミーズ(2009年製作の映画)
4.5
“奪うのは、汚れた金
愛したのは、たった一人の女。”

実在した銀行強盗、ジョン・デリンジャーの生き様をFBI創設当初と絡めて描いた犯罪映画。大恐慌時代だったアメリカで義賊のように犯罪行為を重ねる男と、その男を愛した女性、追いつめていくFBIを静かに巧みに綴ってく。監督は『ヒート』『コラテラル』を手掛けたマイケル・マン。デリンジャーを演じるのは『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズのジョニー・デップ。

1933年、大恐慌下のアメリカで“黄金時代”を謳歌する銀行強盗、ジョン・デリンジャー。大胆不敵な犯行手口で銀行から金を奪い、しかし貧しい人間からは一銭も奪わない。紳士的な振る舞いと独自のルールを貫く彼を不況に苦しむ国民たちはヒーロー視していた。そんなある日デリンジャーはビリーという女性に出会い、彼女と恋に落ちていく、その頃、新設された捜査機関FBIで捜査官メルヴィン・パーヴィスはデリンジャー逮捕へ動き――。

題材的には去年見た『ザ・テキサス・レンジャーズ』や『ジェシー・ジェイムズの暗殺』と同様の無法者。メディアや支持者が祭り上げていった一人の犯罪者……そんなお話ではありますが、結構面白かったです。

実を言うとレンタルビデオで以前映画は観てたんですが、思ったよりも淡々とした演出にのれなくて、初見の時はイマイチだったというのが本音だったんです。ですが今回久方ぶりに映画を拝見したんですが、ボクが歳を重ねたからか、前より夢中になれました。何より先の二本と違い、デリンジャーはメディアや支持者を巧みに利用していたって、この映画の描き方がとても良いと思いました。

勿論彼が犯罪者であるのは一貫してますし、法に背いている人間としてしっかりと描いてます。ですがそこに非常に巧みに、人間味を加味させて、自分の心の赴くままに生き続ける「アウトロー」……そこを非常に魅力的に描いたのが良かったです。

監督のマイケル・マンは代表作『ヒート』然り、アウトローの哀愁や同時に内在するロマンをガッツリと描いていくのが本当に巧いうえ、アクションをどこか詩的に語るのが上手いです! ウィスコンシン州の山荘でのデリンジャー一味 vs FBI捜査官たちとの攻防がそうなんですが、この一連のシークエンス、スゴく夢中になれました! 何が一番良いかというと、部下を殺したデリンジャー一味の一人(“ベビー・フェイス”・ネルソン)を追いつめるバーヴィスの追跡戦。ここは前述した映画『ヒート』においてアル・パチーノが逃走するトム・サイズモアを追跡するパート。あれ級に素晴らしくって、メチャクチャ見逃せなかったです! そして最後に捜査官がビリーに伝えた“ある言葉”。個人的見解ですがマン節炸裂してました。詳しくは本編を是非とも見て! に尽きますが、爽快よりも味わい(ほろ苦さや死者に対する無言の尊重と言いますか……)・余韻を優先するとこがこの監督の作品のとてもとても良いとこです(『マイアミ・バイス』のラストシーンも同様に好きですね)。

で、ボクが改めて、映画を観ていて思ったことは、誰も守ってくれなかった人たちの姿です。デリンジャーやビリーたちを主軸に話をしていくと、彼らはどうにか生きていくしかなかった人たちでしたね。(大恐慌時代といえど)行政機関は助けてくれず、格差の広がり、無知による偏見や差別とか、あの時代(と括っていいかは安直かもしれませんが、)の悪しきものが人々を追いつめる。フランス人の父親とメロニー・インディアンの母親との間に生まれたビリーのように、混血児というだけで差別される理不尽さ、それが個人を決めるわけでは無いのを無視をする人間たち……世界や社会を失望するのもどこか納得できますね(勿論犯罪行為というのを許容しろとは言いません)。だからメディアや支持者たちが欲しいものを与え続けるデリンジャーを英雄視するのも何か分かります。多分、感覚的嗅覚がデリンジャーはずば抜けてて、加えて自分も同じ立場だから出来たんでしょうね。

大分長くなったようで、そろそろまとめに入ります。

とにかくマイケル・マン作品の新たなお気に入りの一本で、ますます格差が広がるからこそ、殊更響くと思います。あと最後におすすめのキャストの名前を書いておくと、デリンジャーの親友で右腕的な(ジョン・“レッド”・)ハミルトンを演じたジェイソン・クラークと古参の武闘派捜査官でビリーにとある言葉を伝える(チャールズ・)ウィンステッド捜査官のスティーヴン・ラングです! この二人は本当に惚れ惚れするほどカッコいい!!!
平田一

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