アニマル泉

悪太郎のアニマル泉のレビュー・感想・評価

悪太郎(1963年製作の映画)
4.5
清順が高峰三枝子をどうしても撮りたかったという作品。原作は今東光。美術の木村威夫が初めて参加した。清順の正攻法な一作と言われるが、いやいや、予想外のジャンプカットや清順印の様々な主題に彩られていて、本作で清順独自の作風が完成しているのが判る。例えば東吾(山内賢)が母・高子(高峰三枝子)に置き去りにされたと知って縦道を手前に走ってくる、ジャンプして見た目の母が乗せた列車が走り去った縦構図の線路の空ショット、ジャンプして東吾のアップに涙が落ちる。これが清順のリズムだ。回想やイメージショットも唐突に奔放に挿入される。母の高峰三枝子の回想はレンズ目線なので強烈だ。
本作は「水」の主題だ。東吾と母を乗せた二台の人力車が豊岡の川辺を走る。東吾と恵美子(和泉雅子)の出会いは雨宿りの軒先だ。そして二人のキスシーンはいきなりジャンプカットで川バックになる。東吾と鈴村(野呂圭介)の喧嘩も川、鈴村が腰を抜かして川の中へどんどん後退してずぶ濡れになるのが可笑しい。清順映画では誰かがずぶ濡れになるのだ。東吾と芸者・ぽん太(久里千春)の逢引の場面は橋、二人は何回も川に落ちる、ただし水面は画面のオフなので二人はフレームアウトするだけで水没ショットはない。
川への落下は清順の「高さ」の主題でもある。本作では「高さ」の主題は緩やかな坂道が印象的だ。恵美子の別れの後ろ姿、ラストカットの東吾の後ろ姿は坂道を下っていくロングショットだ。
本作は固定ショットで人物がイン・アウトするのが面白い。東吾が恵美子の家に忍び込む場面、カメラは居間のロングショットのままで人が去り、東吾が隠れ、空ショットになる、しばらくして奥の廊下から美恵子が現れる。このワンショットが素晴らしい。
寺のお堂の周りを東吾と恵美子がグルグルと延々歩き回る場面の「反復」も面白い。
清順好みの「縦構図」が、道、線路、廊下と頻出する。「円」は美恵子と芳江(田代みどり)の登場の傘だ。
白黒シネスコ。
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