継

ブコウスキー:オールドパンクの継のレビュー・感想・評価

4.5
ー モラルなし
“親が作品を気に入るようでは駄作、警察が動けば良い作品”
ー 露骨な性描写
“セックスとは寝つけない時にするもの”

トラブル, スキャンダルは数知れず
酒とギャンブルと女に彩られた男の生き様
世間の常識に捕らわれず, 生きたいように生きた「無頼」.

49歳で物書きに専念するまで, 職を転々としながら書き続けた異例の経歴を持つ “old punk” チャールズ・ブコウスキーの半生.
数々のインタビュー映像や関係者のコメントを中心に「ステレオタイプに語られがち」なカルト作家の素顔に迫る.
動くブコウスキー, 話すブコウスキー, 呑むブコウスキー...その一挙手一投足をたっぷり拝めるドキュメンタリーです。

サブカルに凝ったりヴィレッジヴァンガードで本を漁ったりする方には覚えがある作家かも。
「女にモテる文化人」として比較されるゲンズブールとは, 似て非なる “不良な大人”。
カートン買いした煙草を抱えて颯爽と入院する所を, カメラマンに撮らせるようなカッコつけはしないし, そもそも女扱いは上手くない。そりゃあバーキンやバルドーに比べたら失礼だけど女の質も落ちる...って, イヤそういう事じゃなくww、

本作でも初体験の惨めなエピソードを面白おかしく語るシーンがあるように, ブコウスキーは自分の弱味や普通なら口外しない事までありのままにさらけ出す。
この人はレイモンド・カーヴァーみたく詩と小説の両方を書くのだけれど, とりわけ詩については
彼に “父親を重ねて見てた” と語るトム・ウェイツの, その歌詞の世界観に共通する優しさがあって, ほろ酔い気分で浸ると悲観的な言葉の羅列に寄り添うような真っ直ぐな視線が感じられて胸に沁みる。

内容に関する干渉を避ける為に, 大手ではなくインディペンデントで制作された作品。それが功を奏したというか, とにかく喧伝されるイメージを払拭するブコウスキーの姿・実像に驚くばかり。

漠然と抱いていたイメージとのギャップが激し過ぎて面食らうのだけれど,
インタビュアーとのやり取りからは, ギャップに悩んでいたのは寧ろブコウスキー自身だった事が垣間見える。
曰く, 己の素顔と世間やメディアが欲して被せたアウトロー作家の “仮面” との乖離(かいり)。
一方で, そんな作られた仮面に更に尾ヒレが付いたカリカチュアされたイメージが成功の要因になったのもまた事実で, 彼が起こす幾多の醜態はそんなギャップへの苛立ちと正当な評価が成されていない不満の表れ... と, これは贔屓目に過ぎるかもしれないけれど, そう思えてしまう。

部屋に棚を拵(こしら)えて郵便物の仕分けの訓練をしていたエピソード, リンダとの蜜月を綴った詩の朗読中に感極まって涙ぐむ姿,
ボノ(U2)曰く “比喩する暇なく, 言葉に衣を着せない” そんな文体の特徴を, “虐待されると言いたい事しか言わなくなるんだ” と幼少期の闇の産物のように語って “父親こそ文学の先生” と擁護するブコウスキー。。。
悪酔いさせられたインタビューで妻リンダを足蹴にするシーンもバッチリ映るが, そうした人間的な弱さも全てひっくるめた上で, “仮面” とはおよそ似つかわしくない優しさ・真っ直ぐさこそが彼の素顔, だったのだ。

物書きで喰ってゆく夢を何度も挫折しかけ, 這いつくばっては泥酔して我を忘れ, のたうち回っては “fxxk! ” と喚き散らし, それでも諦めずに書き続けた果てに, 漸く掴んだ成功。
アメリカ文学の潮流が彼のスタイルに追い付いた偶然, 才能を見抜いた編集者との出会いの奇跡, 生きてる間に売れた幸運。
作家には色々な人生経験を経てそれを糧に文章に説得力を獲得する種類の人々がいるけれど, 彼にとってもそれが必要な回り道だった事が分かる構成に本作はなっていて, “仮面” を剥がさんと肩入れする作り手の思いが伝わるよう。

特典のリンダが撮ったホームビデオ(死ぬ2年前, 生前最期の姿を撮らえたもの)で愛猫を隣に置き己の詩を朗読する姿には, 物書きとして夢を達成して人生の幕を自ら静かに下ろそうとする, 穏やかな多幸感が溢れていました。


短いけれど, 友人としてハリー・ディーン・スタントンが登場! 詩を朗読するシーンには驚いた。パケ裏のクレジット上にTSUTAYAのラベルが貼られてて気付かなかっただけwwなんだけど, 嬉しいサプライズ。

現金なものでブコウスキーの素顔を知ると, その言葉はより切れ味を増して心に響く。
こんなの観せられたら, どうしたって自分の生き方を考えさせられてしまう。。
観られて, 良かったです。
継