『プルートで朝食を』
ニール・ジョーダン監督
２００５年公開 アイルランド・イギリス
鑑賞日 ２０２３年８月１４日 U-next
１６年ぶりに再見しました。
数々の困難にあいながらも天衣無縫で明るく生きる女装趣味のアイルランドの青年の人生を描いた作品です。
困るのは「この作品のどこが面白いの？」と言われた時にどう答えていいか、だ。
こ〜いう演出のセンスで楽しませてくれれば物語などどうでもいい。
映画は物語そのものよりも物語の語り口調を楽しむエンタテイメントなのだからそのセンスに酔っているうちに１２７分は過ぎ去っています。
【Story】
北アイルランド紛争が激化して爆弾テロが頻発していた１９７０年代のアイルランドの小さな街。
司祭館の前に捨てられたパトリックは、子供の頃から母親の服を着て化粧をしては怒られる男の子でした。
青年になったパトリックは教会の銀行宛に小切手が来ているのを見て、自分の母親は神父と関係があるのではと考えます。
授業の自由作文に神父と家政婦の恋物語を書くと、破廉恥な内容を叱られてしまいます。
学校に作られた相談箱に「性転換の医者を紹介してくれ」と書いて学校から叱られました。
家では化け物呼ばわりされます。
ということで、
子供の頃から実の母親はミッツィー・ゲイナーに似た美女だと教えられたパトリックは大都会のロンドンまで母親探しの旅に出ます。
おしゃれをしてクラブへ行ったパトリックは気持ち悪いヤツだと店には入れてもらえませんが、
同じく入店拒否されたバイクの一団の後ろに乗せてもらいます。
彼らは星々を訪ねて火星へそして冥王星で朝食をと言うカルト集団だった。
旅の途中、バンドのキャンピングカーに拾われたパトリックはメンバーのビリーと急接近し、
他の仲間に白い眼で見られながらバンドで歌うようになります。
バンド仲間がパトリックを追い出そうとしたのでビリーは彼を自分のキャンピングカーに連れて行きます。
パトリックはビリーの帰りを待ちながら１人でそこで暮らすようになります。
ところが大量の銃が床下に隠されているのを見つけたパトリックが湖に銃を全部捨ててしまうとビリーは怒って彼の元を去ってしまいます。
パトリックは再び１人で母親の住むロンドンに向かいます。
人生なんて物語だと思わなければつらすぎるわ！
と、うそぶきながらパトリックの波乱万丈なロンドンへの旅は続きます。
パトリックの人生はかなり悲惨です。
・神父と若い家政婦の間にできた子ども（捨てられて母とは離れ離れ）。
・義母・義姉にはひどいことを言われて育つ。
・大切な友人をテロリストの爆弾で亡くす。
・ゲイ嫌い？なおじさんに殺されかける。
・爆弾犯にされる。
・クリスマスイブに放火される。
ところが自由奔放で明るいパトリックはどんな苦難にもめげずチャーミングな笑顔で乗り切ります。
アイルランド紛争が激化する１９７０年代のアイルランドとロンドンを舞台に本物の愛を求めるトランスジェンダーの青年の物語が『プルートで朝食を』です。
【Trivia & Topics】
＊１章４分の物語。
本作は３６の章で構成されています。
１章がおよそ４分。
それによりパトリックの人生がとても分かりやすく語られます。
＊キトゥンと呼んで。
パトリックは誰に対しても自分の名前はキトゥンだと名乗ります。
キトゥンとは聖パトリックの従者のことです。
つまり性同一性障害のパトリックは「私はパトリックの従者なのよ」と宣言しているのでしょうね。
＊プルートで朝食って？
この作品のタイトルは下記のシーンで語られます。
クラブへの入店を断られたパトリックはバイク集団に拾われます。
彼らは「国境の騎士」だと言います。
✲バイク集団のリーダーが言います。
古代ケルトの偉人達(ドルイド)は時空の謎を知り尽くしていた。
上っ面は関係ない。
国境の騎士にはハイウェイがすべてだ。
✤パトリックがリーダーに問いかけます。
どうしてあんた達、国境の騎士なわけ？
✲俺たちがこだわるのは、後ろにあるものと前にあるものの境目だけだ。
俺はバイクで道を走っているんじゃない。
俺は過去から未来に向かってケルトの偉人と旅しているんだ。
✤その人は男、女？
✲関係ない。大事なのは旅だ。どこに行くと思う。
星巡りをして、火星に行ってからプルート(冥王星)で朝食をとる。
✤プルート?
冥王星だよ犬のプルートじゃない。
天文学者のP.ローウェルとW.ピカリングがプルートと名づけた。
神話の”冥界の王”から取ったそうだ。
覚えておけよ。
＊キリアン・マーフィー。
この作品の魅力は何と言ってもアイルランド出身のキリアン・マーフィー。
『２８日後』（２００２）、『バットマン・ビギンズ』（２００５）、『ダークナイト』（２００８）『ダンケルク』（２０１７）などに出演している男臭い役者さんです。
その彼が女装してしなしな歩きながら思いっきりふわふわと明るい人生をおくっているトランスジェンダー役をやらせたニール・ジョーダンのセンスが素晴らしく、それを演じきったマーフィーが見事です。
キリアン・マーフィーは２０２３年７月２１日にアメリカで公開された問題作『オッペンハイマー』で原子爆弾を開発した理論物理学者オッペンハイマー博士を演じています。
マーフィーの透明感のあるブルーな瞳はとても印象的です。
＊音楽最高！
オープニングとエンデイングを飾るザ・ルベッツの「シュガーベイブ・ラブ」から始まり、ハリー・ニルソンの「傷ついた心」、パティ・ペイジの「ワン・ワン・ワルツ」、ダスティン・スプリングフィールドの「風のささやき」、モーリス・アルバートの「愛のフィーリング」、サント＆ジョニーの「キャラバン」、ボビー・ゴールズボロの「ハニー」などいつかどこかで耳馴染んだ曲オンパレードが実に効果的に使われています。
【5 star rating】
☆☆☆
（☆印の意味）
☆☆☆☆☆：超お勧めです。
☆☆☆☆：お勧めです。
☆☆☆：楽しめます。
☆☆：駄目でした。
☆：途中下車しました。
