このレビューはネタバレを含みます
パトリシア・ハイスミスによる手の込んだストーリー仕掛けが登場人物に種明かしされないまま罪の塗り重ねが暴かれず映画が終わってしまうことで、死者や残された人々のやるせない気持ちと取り返しのつかない主人公の放心状態が後引く。
本作はルネ・クレマン《太陽がいっぱい》のリメイクだが、美しいままのアラン・ドロンとは違って《リプリー》のマット・デイモン演じる絶妙に冴えない主人公がストーリーの深みを増しているように思える。
婚約者しか知らないディッキーの繊細さは顔相やキャラクター的に設定として確かに存在する一面だと感じられるが、ディッキーと婚約者の二人きりの場面を第三者であるリプリー目線のカメラワークに留めることで、婚約者の気持ちや主張が蔑ろにされる後半のやるせない場面描写が成功している。