fujisan

リプリーのfujisanのレビュー・感想・評価

リプリー(1999年製作の映画)
3.5
パトリシア・ハイスミスの名作『太陽がいっぱい』

しがないアメリカの貧乏学生リプリーが、とある富豪の紳士から、イタリアで放蕩生活を送る息子をアメリカに連れ戻すことを依頼される。

イタリアまで赴いたリブリーは、海の見える邸宅で仕事もせず、ヨットを持ち、夜はおしゃれをして優雅に女性と遊ぶ富豪の息子グリーンリーフの華麗で優雅な暮らしぶりに圧倒される。

『アメリカには帰らない。お前もしばらくここで過ごさないか?』 そう誘われたリプリーは、グリーンリーフと一緒に暮らすうち、彼に対する愛情にも似た感情を抱きはじめる。

リゾート地アマルフィからナポリ、サンレモ、ローマ、シチリア、そしてベネチアと、グリーンリーフと華麗で優雅な暮らしを体験していく内、リプリーは心の中で大きな決心をする。そして物語は狂気を帯びはじめ・・というストーリー。

パトリシア・ハイスミスの1955年の名作『太陽がいっぱい(原題:才能あるリプリー)』は1960年に映画化され、主演のアラン・ドロンを一躍世界のアイドルにした名作。そして、現在に至るまで何度も映像化された作品です。

そんな『太陽がいっぱい』が、先日ネットフリックスでドラマシリーズ化され、話題に。
Netflix『リプリー』アンドリュー・スコット演じる天才詐欺師の光と闇 - THR Japan
https://hollywoodreporter.jp/tv/39399/
https://filmarks.com/dramas/8937/12741

アラン・ドロン主演作にあった、イタリア・リゾートの気だるくもカラフルな美しさを封印するかのような全編モノクロ映像。ただ、どのシーンで一時停止しても絵画として成立しそうな美しさが表現された、高い完成度のドラマシリーズになっていました。

さて、ドラマ編のレビューを書くか否か。Filmarksをあてもなく放浪していると、本作に行き着きました。
『え? マット・デイモン主演で太陽がいっぱいのリメイクしてたの?、と。』 ということで、長くなりましたが本編のレビューです。

本作には原作を映画化したもの以外にもインスパイアされて作られたような作品が沢山ありますが、一旦アラン・ドロン主演の「太陽がいっぱい」、ネトフリドラマの「リプリー」、そして本作の3作品に絞って比較します。

□ 登場人物の描かれ方
どの作品でも共通する主要キャラクターは、主人公のリプリーと放蕩息子のグリーンリーフ(ファーストネームは各作品で違います)、グリーンリーフの恋人マージと、悪友のフィリップの4人でしょうか。

各作品で大きく違うのは、主人公リプリーから受ける印象。
アラン・ドロンがリプリーを演じた作品では貧富の格差から、怠惰で傲慢なグリーンリーフに対して嫉妬してもやむ無しと描かれ、逆に、ネトフリドラマ版では、上流階級出身で人を疑わないグリーンリーフに対し、リプリーの狡猾で不気味な印象が際立つ作りとなっていました。

で、本作のリプリーはというと奇妙なまでにその中間の位置づけで、こんな感じです。

    太陽がいっぱい  リプリー(本作) ドラマ版
リプリー  不遇な青年   自分探し中   狡猾で不気味
GR   嫌味な金持ち  傲慢だが優しさも  いい人

グリーンリーフ(GR)の恋人マージは大きく印象は変わらず、悪友フィリップはドラマ版以外は太った男性、ドラマ版は中性的な雰囲気の青年として描かれており、他の端役含め、ドラマ版は全体的に現代風にアップデートされている印象です。

□ 各作品の特徴
個人的な印象ですが、各作品の特徴は以下の通り。

アラン・ドロン作品:浮世離れしたイタリアリゾートの怠惰な雰囲気と、アラン・ドロンの美しさを際立たせる作品

リプリー(本作):リプリーとグリーンリーフの同性愛の側面を強調した作品

リプリー(ドラマ版):モノクロで描かれたイタリアリゾートの絵画的美しさと、長編ならではの細かい心理描写

評価のスコアとして本作が最も低くなっているのは、若干中途半端な印象を受けたことと、原作には登場しないオリジナルキャラクターがエンディングに絡んでしまったからかもしれません。

ただ、稀代のアイドル俳優、アラン・ドロンが演じた役を演じた20代のマット・デイモンの勇気を買いたいのと、

1950年当時にバイセクシュアルを公言されていたパトリシア・ハイスミスによる『性の境界のあいまいさ』は、本作が最も表現出来ているのかもしれません。

あと、生まれついての金持ちの傲慢さと優美さを兼ね備えたグリーンリーフ役は、本作のジュード・ロウが一番良かった。

アラン・ドロン主演作品はずいぶん前に観たきりなので、また観直してからレビューしたいと思います。
fujisan

fujisan