頭の上の赤い林檎

リプリーの頭の上の赤い林檎のレビュー・感想・評価

リプリー(1999年製作の映画)
4.7
 嘘に嘘を重ねることの恐ろしさ。それは一度経験したことのあるものならばわかるはず。というか、誰もが嘘のない生涯など送るはずはないので、ほとんどすべての人がそのけいけんはしているだろう。

 そういう意味で今作はその嘘の積み重ねの最終形態。誰もが経験した積み重ねの歯車が幸か不幸かぴったりかさなってしまい映画化されるほどの詐欺師へと行きついてしまった。
 つまり、主人公トムリプリーは詐欺師なんかではなく、どこにでもいる平凡なただの青年。ただ少し自分を大きく見せたり、他人に対する自己開示が下手なだけで。まあそこが問題だったわけだが。そんな印象を私は受けた。

 だから、実在した大詐欺師の話にもかかわらず多くの部分で感情移入できたのだろう。
実際それを狙って作られたのだろなと感じる演出も多々あった。

 この主人公トムリプリーを演じたマッドデイモンはほぼ完璧にそんなトムを演じていた。
 トムの犯行は意図した詐欺と偽証ではなく、すべてがその場任せでついた浅薄なウソ。その浅薄な嘘がまた浅薄な嘘を強いられることとなり、トムはその都度罪悪感を感じ、悪夢にうなされる場面もあった。

 視点はずっとトムの主観で進む。つまり、マッドデイモン次第で今作の出来不出来は決まるといっても過言ではなかったわけでもある。
そんなトムの心情を表情から何気ない目線まで、全てで完璧に感じさせたマッドデイモン。彼だから今作の私が抱いた、誰にでもトムに成り得るという印象を与えられたんだろうなあと思う。

 誰にでもトムに成りえるという意味では、ジョーカーとか、キングオブコメディに通ずる恐怖もあると個人的には思う。
素晴らしい。最近見た映画でダントツかな