ほのか

四月物語のほのかのネタバレレビュー・内容・結末

四月物語(1998年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

私が生まれるより前で街並みだったり電話だったり色んなところから昔を感じるのに何故かすごく懐かしい自分の思い出のように感じる作品だった。物語としてなにか大きなオチがあったり展開があるという訳ではなく、ただ1人の女の子の日常をほんの一瞬だけ切り取った内容なのにずっと観ていられる平和で微笑ましい作品ですごく好きだった。卯月が赤の傘を選んでそれが壊れていると分かったあとも「これでいいんです」ではなく「これがいいんです」と言い直したり、最後の「どうせ奇跡と呼ぶなら私はそれを愛の奇跡と呼びたい」という所などセリフやナレーション一つで初々しい恋する女子大生というのをすごく感じられて見ていて笑顔になる。卯月のモデルになった人がジョン・レノン殺害事件の犯人、マーク・チャップマンだとは誰も想像出来ない驚きだけどよくよく考えたら1、2週間張り込んで殺害に至ったチャップマンと、先輩と同じ大学に行くため上京し先輩が働く本屋に通いつめる卯月が若干重なる。殺人犯から着想を得てこんなにも穏やかで真逆の雰囲気の映画を作り上げるのは本当に天才的だと思う。映画やドラマでほとんどの場合悲しいシーンなどに使われることが多い雨の描写も映像としては少し暗めなのに、そこに先輩に借りた真っ赤な傘と笑顔の卯月がいることで何故か観ていて幸せになる暖かい雰囲気があった。映像が昔の映画ならではのエモーショナルな雰囲気ですごく綺麗で、本来なら相当な強風が吹かない限り飛ばないであろう量の桜が散る描写ですらもすごく綺麗に感じた。ラストシーンからエンディングにかけてかかったピアノの曲は平凡な女の子の日常や恋する卯月のイメージにピッタリで優しくて暖かくて、ずっと聴いていたくなる。岩井俊二監督の作品ではいつも感じるけれどこの作品は特に映像、音楽、表情、役者さんの声など全てにおいて大好きな曲のミュージックビデオを見ているような感覚で、監督でもあり音楽家でもある岩井俊二監督ならではの作品。
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