ロックウェルアイズ

四月物語のロックウェルアイズのネタバレレビュー・内容・結末

四月物語(1998年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

大学進学のために北海道の旭川から上京してきた楡野卯月。
東京の街での新生活は何もかもが新鮮に映る。
しかし、彼女が大学を受験したのにはとある不純な動機があった。

久しぶりの岩井俊二映画。
四月物語を4月ギリギリに観れたわけだけど、決して4月の物語でないところが面白い。
独特の世界観と映像美はいつものことながら、今作では特に岩井監督の映像作家っぷりが炸裂している。
桜の花吹雪に始まり土砂降りの雨に終わる。
時制が本編で語られることはないが、彼女がいる景色で読み取ることができる。
これが本当に自然で映像的にも映画表現的にもとても美しい。
しかも、卯月の心情もなんとなく伝わってくるから不思議だ。
雪の降る旭川の3月→別れ、悲しみ
桜の花びらが降る4月→出会い、不安
日差しの降る5月→大学生という開放感、楽しさ
突然の雨降る6月→恋心、喜び
逆説的な感覚も印象的だった。
寒い旭川から暖かい東京にやってきた彼女。
しかし、家族や友達と別れ、大学では友達という友達もできずはじめは少し孤独を感じる。
燦々と照りつける太陽の元では戸惑いや寂しさが見え隠れする。
しかし、ラストの雨のシーン。
喜びと先輩への想いが溢れ返っている。
土砂降りの雨がとめどない彼女の感情を表すように。

一連の傘の貸し借りは本当に無駄なやり取りだが、それが良い。
澄み切った若き日の松たか子の瞳に胸がギュッと締め付けられる。
確かに不純な動機かもしれないが、その想いは純粋以外の何者でもない。
他にも引っ越し屋の手伝いをしようとあたふたするところとか、映画の件の長さとかとにかく無駄が多い。
でもその無駄こそがこの映画の本当の美しさだと思う。
短尺だがこの季節に観たい名作。