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陸軍残虐物語のHKのレビュー・感想・評価

陸軍残虐物語(1963年製作の映画)
5.0
後に『新幹線大爆破』『野性の証明』などを監督する佐藤純彌監督のデビュー作。キャストは三國連太郎、中村賀津雄、西村晃などなど

とある陸軍中隊の駐屯地の便所で殺人事件が発生した。何者かが上官を刺殺したのだ。その後その男は脱走する。男は田舎から最愛の妻に別れを告げ入隊した二等兵だった。しかし万事において鈍い男は同じ寮の人間や上官たちに酷い虐めを受けていたのだった。

佐藤純彌監督デビュー作にして今のところ個人的最高傑作。ここまで分かりやすくストレートに日本の軍隊内の上下関係によるパワハラの怖さとえげつなさを描いた映画は恐らく他にない。素晴らしい。

監督自身が村社会で虐めを受けていた経験があったそうで、日本人の陰湿な部分とかを肌で味わっている経験を存分に生かしている。

今作は開幕当初から時系列シャッフルをした状態で説話が展開される。まず初めに一番のショッキングな出来事が起きて物語が始まるのはノワール映画のやり方を通している。

それでいて、三國演じる犬丸がしごかれる寮生活での説話と、例の事件後に脱走した犬丸の知らせを聞き彼を恥に思う家族たちの説話を同時進行させる。

メインとなる犬丸の物語は、学校生活で虐めを受けた人間にはびんびんに来るであろうパワハラのオンパレード。上官からお茶を入れる順番を間違えた、上手下手を間違えただけでぶん殴られる不条理っぷりをリアリスティックに描く。

犬丸虐めを率先してやる亀岡軍曹の外道鬼畜ぷりがすげえわ。しかしそれでいて、本人の家庭生活が上手くいかないという人間味ある部分もしっかりと描かれているため、極悪人というよりひたすら人間の業を集めたようなキャラとなっている。

犬丸と亀岡の関係性は後年のキューブリックが手掛けたフルメタルジャケットに酷似している。キューブリック邦画も好きそうだし、絶対この映画見てるような気がする。

しかし、フルメタルジャケットのハートマン軍曹はまだ愛があった。こちらの西村晃は完全に腹いせと憂さ晴らしで虐めやってるために本当にただのパワハラの光景を見てるようで見ていて腹が立った。

この映画では聖人のように怒らない発達障害持ちの犬丸を除いては、全員がそれぞれ人間臭く、欲望に溢れたキャラクターに描かれているから面白い。

しかし、そんな欲望溢れる中でも犬丸の純粋な思いからの行動でぼっとん便所の糞溜めで芽生える本当の友情が素晴らしい。

しかし、最後は映画の序盤で見せたようにとんでもない展開を見せて、とんでもない絶望へと加速していく。友情や希望の光が終盤に行くにつれてぽつんぽつんと消えて、最後に真っ暗になって止めを刺される展開は素晴らしかったですね。

佐藤純也監督は台詞回しのストレートっぷりも素晴らしい。何よりも最後の最後で犬丸が浴びせられる脱走してしまったが故に呼ばれる「非国民!」という罵倒が突き放してるようで本当にえぐい。

日本人の本当に嫌な陰湿なパワハラ文化を軍の厳しい階級制度から淡々と冷酷に描く佐藤純也監督のデビュー作。本当にすごかったです。

ここからどうすれば『北京原人who are you?』に行くのか、信じられん。素晴らしい映画でした。佐藤純也監督初期作をもっと見てみたいと思いました。見れて良かったと思います。
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