ゴト

彼女の名はサビーヌのゴトのレビュー・感想・評価

彼女の名はサビーヌ(2007年製作の映画)
4.0
主人公であったり、観客に近い特定の誰かであったり、映画は誰かの視点で描かれることが殆どだ。そして、それにはレンズと被写体との距離感も大きく関わってくる。

「仕立て屋の恋」などで知られるフランスの女優、サンドリーヌ・ボネールが自閉症の実の妹サビーヌの施設での日常を映したドキュメンタリー。この映画は、そんな被写体との距離感や視点というものがはっきりと伝わってくる作品だと思う。

精神疾患をモチーフとした他のドキュメンタリー映画と同様に、この映画も施設の入所者たちと一定を距離を保ってカメラを回している。言ってしまえば神の目線である。

しかし、妹サビーヌはいとも容易くそれを破ってくる。彼女はことある毎にカメラを向けるサンドリーヌの名前を呼び、カメラに目線を送り、不安そうな表情をこちらに見せる。他の入所者の姿を映している時は神の目線で観ていても、その外側からサンドリーヌを呼ぶ声が聞こえると一瞬にして観客の視点はサンドリーヌ、つまりサビーヌの家族へと変わるのだ。

インタビューをしていても、遠くから名前を呼びながら近づいてくるのだから本当にお構いなしである。少し荒っぽくも見えるけど、この慌ただしさが他にないリアルさとして押し寄せてくるのが良い。

そしてドキュメンタリーとは得てして予期せぬものをカメラにおさめてしまうものである。神の目線と家族の視点とが交錯し、そして今のサビーヌと若かりし頃のサビーヌもまた交錯してゆく。
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