燕鷲

普通の人々の燕鷲のレビュー・感想・評価

普通の人々(1980年製作の映画)
5.0
初めて観たときの感動は、きっと一生忘れられない。

飾り気のないクレジットの後、静かに聴こえてくるカノンの旋律。穏やかに揺蕩う湖面と、色付き始めた木々の葉。美しい風景画のようなオープニングを眺めながら、直感的に「これは傑作だ」と思ったことを未だに覚えている。

皆に愛された長男の事故死。普通ではいられなくなってしまった次男と、普通であることに固執してしまう母、二人の間で自身の無力さを痛感する父。大切なピースを奪われ、均衡を保てなくなった一家のパズル。

三者三様の心の動きをじっと見つめるレッドフォードは、我々が“当たり前”としている家族の在り方にメスを入れていく。

共同体を維持することの困難さ、それぞれの役割を無意識に演じることの危うさを抉り出し、遂には「家族だからといって無条件に愛せるわけではない」という残酷な真理を露にしてみせた。

苦しみを克服したコンラッド。旅行から帰ってきた両親に「おかえりなさい」と声をかけ、そっとベスに歩み寄り、抱擁する。彼は悟っていた。愛してはもらえないが、愛することはできると。だから、母を許した。
しかし、放心状態のベスは我が子の愛情表現に応えない。抱き寄せることもしない。いや、できなかったというほうが正しい。
コンラッドが「おやすみ」と言って離れたあとの彼女の表情、それが全てを物語っている。ベスは“何も感じなかった”のだ。家族が抱える問題について目を背け続けた結果、愛情の受け入れ方さえも忘れてしまった。

ひとを愛することは難しい。愛されることもまた、難しい。誰もがそんな“普通”に耐えながら生きている。ふと立ち止まる余裕もなく、そして日常に回帰していく。

カノンのように。
燕鷲

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