ふき

普通の人々のふきのレビュー・感想・評価

普通の人々(1980年製作の映画)
4.5
とある一家が長男を失ったことで、実は抱えていた問題に直面するヒューマンドラマ作品。

本作は「普通の人々」が経験する、たくさんの「普通の問題」を描いている。次男、母親、父親のそれぞれに抱える、自分のこと、家族のこと、友人のこと、異性のこと、家族のことなど様々な問題だ。普段なら解決するなりにいなすなりしていたそれらの問題が、「長男の死」という一点によってゆがんでいく。次男は心を病み、母親は長男の死を受け入れず、父親はそんな家族になにもできず、一家のひずみは大きくなっていく。
そんな問題を本作は、さすがはアカデミー作品賞受賞作品というべきか、簡単には解決しない。というよりそれぞれ深刻さを増した段階で投げ出されたまま、問題は解決されないのだ。だが普通の作品なら「尺が足りなかったのか」と思いそうなこの終わり方が、私が本作を気に入ったところだ。

『普通の人々:Ordinary People』と銘打った本作が描いているのは、特別などこかの誰かではない「普通の人々」、つまり我々だ。そんな我々が普段経験している「普通の問題」は、大抵は映画のように解決しない。それでも我々は、「波が収まるのを待って」「なにかの真似をして」「見なかった振りをして」「居場所を変えて」「一部を受け入れて」「誰かに愚痴って」問題をすり抜けていく。時々誰かと正面衝突して、ほんの少しだけ成長し、今まで眼を逸らしていた問題の一部に立ち向かう勇気を得る。
本作はそんな我々の右往左往を、「長男の死」という棘を打ち込むことで浮き彫りにしたものだ。ゆえにそこから浮かび上がる問題は、簡単には解決させない。解決させないことでお話を開いて終えるのが、本作が扱う題材への誠実な態度だからだ。

本作の結末を見て、「いい雰囲気だけどバッドエンドでは」と思う方もいるが、私はそうは思っていない。彼らは涙を流してなにかを乗り越え、成長した。だから投げっぱなしで終わった問題や、解決できなかったように見えた問題も、いずれは解決できると思っている。そう思いたい。
追復曲のように「登場人物の人生はこれからも続いていくんだ」という、厳しくもあり暖かくもある視聴後感が、私が本作を気に入っている理由だ。繰り返し見るには重い内容だが、人生の節目には見たいと思う。

……初見時の生意気盛りの私が「なんだよこれ! クソ映画だよ!」と怒ったのを見て、我が家の父親はなにを思ったのかな。あと二〇年もしたら分かるかな。
ふき

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