かじドゥンドゥン

異人たちとの夏のかじドゥンドゥンのレビュー・感想・評価

異人たちとの夏(1988年製作の映画)
3.8
ドラマ脚本家のハラダ・ヒデオ(40歳)は、妻子と別れたばかりで、夜になるとほとんど人がはけるオフィスマンションに居を構えている。

ある日、幼少期を過ごした浅草の演芸場にふらりと立ち寄ったヒデオは、そこで、12歳の時に交通事故で亡くなったはずの父親と再会。そのまま父に誘われて、亡き両親の住まいでもてなされる。

ヒデオは、懐かしい両親との再会によって、塞いでいた心を癒やされ、人を愛する気持ちを取り戻すと、以前にシャンパンを一緒に飲もうと部屋に押しかけられて冷たく突っぱねた、同じマンションの女性ケイに自ら声を掛ける。その素姓は謎に満ちているものの、自分が手がけたドラマのあるセリフがおきに入りだとそらんじるその女とヒデオは打ち解け、男女の関係になる。

両親のもとに足繁く通い、精神面では充実を得るヒデオだが、その相貌はみるみるやつれてゆく。そのことを危ぶんだケイは、もう両親と会わないようヒデオを説得。両親に会うのはこれを最後と決めたヒデオは、浅草の今半別館に両親を連れ出すと、すき焼きを振る舞うが、一口食べたあたりで両親の姿は薄れ、やがて消えてしまう。

同じマンションの3階に住むケイのもとに入り浸るヒデオ。しかし、そこの住人は1ヶ月前に自殺したはずだということをたまたま聞き知った、ヒデオの仕事仲間マミヤが、ヒデオの身を案じて駆け付け、すっかり消耗した姿でケイと抱合うヒデオを発見。彼をケイから引き離す。するとケイは、自分がヒデオに拒絶された日に胸を果物ナイフで切り刻んで自殺した孤独な女だと明かし、ヒデオへの恨みと愛とが入混じった心持ちのまま、姿を消す。

リメイク版『異人たち』では、主人公の同性愛者アダムがそのことを負い目にしつつ、亡き父との再会・告白を通して自己肯定に転じる。しかしオリジナルの本作では、異性愛者のハラダが若かりし頃の母(の霊)と妙に近づき、危険でエロティックな雰囲気を醸し出す。「夏」という設定がかなり効いている。(もちろん、お盆の時期で死者の霊が・・・ということでもあるのだろうが。)