ラウぺ

異人たちとの夏のラウぺのレビュー・感想・評価

異人たちとの夏(1988年製作の映画)
3.9
妻子と別れ、都内のマンションで一人暮らしをしている原田英雄(風間杜夫)。あるとき階下に住むケイという女性(名取裕子)が訪ねてくる。ケイを家に帰して程なくして、浅草で12歳のときに亡くした両親にそっくりな夫婦と出逢う・・・

原作未読、英国で再映画化の前に未見だった大林宣彦の『異人たちとの夏』をAmazon Primeで鑑賞。
大林版の方は市川森一が脚色を担当していますが、後半ファンタジー色よりホラー要素が強くなり、ちょっと驚く展開を迎えます。
1988年製作ということもあるのか、あの頃の邦画らしく、セリフは割と軽く、人物描写は漫画的で、どことなくトレンディドラマ的風合い。
主演の風間杜夫も編集者の長嶋敏行も飄々とした物腰で、あまり深刻なトラウマを抱えているようには見えない。
階下に住む名取裕子はどこかに不安げな様子が窺われるものの、これまたそれほど深刻な感じはしない。
取材のため地下鉄の廃駅を見学したとき、引率者とはぐれて浅草を彷徨ううちに、子どもの頃に亡くした父とそっくりな片岡鶴太郎と出逢う。
「よう!」と気安く声を掛ける鶴太郎に誘われて家に行ってみると、母とそっくりな秋吉久美子が居た。
風間杜夫が出会う浅草のイメージそのものの東京下町の気の置けない庶民といった風情の父母の様子がたまらなく懐かしい感じがして、大いに和むのですが、父母と何度も出会いつつ名取裕子と関係を深めるうちに風間杜夫に微妙な変化が兆してくる・・・

あくまで軽いファンタジー的展開のなかに突然断たれた親子関係を再構築したい主人公の心情と、それと引き換えに起きる身体の変化をホラー要素に向かわせる展開がちょっとばかり食い合わせの悪さを感じないわけにはいかないのですが、すき焼きの場面といい、胸の奥底に仄かな痛みを覚えつつ離れがたい感情が湧いてくる独特の雰囲気が、この作品を味わい深いものとしているのでした。
ラウぺ

ラウぺ