マチュー

凶銃ルガーP08のマチューのレビュー・感想・評価

凶銃ルガーP08(1994年製作の映画)
4.5
こないだ俺は大藪春彦の「野獣都市」を読んだのだが何となくヌルく、今となってはもう話のスジもまともに覚えちゃいない。

しかしそのあとで久しぶりに読み返した「蘇える金狼」が、これはもうおそるべき面白さで久しぶりに映画も観ちゃった。

頭のなかではふとした瞬間に「蘇える金狼のテーマ」が流れ出し、するとどうしても空港のロビーで派手にすっ転んでまた立ち上がる優作の姿を俯瞰でとらえたあの至宝のカットが浮かんじゃうのを禁じ得ない。

そんなときにふとAmazonで大藪春彦の本を検索すると、創元推理文庫から出ている「日本ハードボイルド全集」の2巻目がまさしく大藪春彦で、みたこともきいたこともない初期長編と、「野獣死すべし」と、そのほか短編が入っているということでさっそく取り寄せて今、積ん読の山の頂点に鎮座しているのだが、パラパラ読んでみると最後に収録されているのは連作短編集「凶銃ルーガーP08」の巻頭をかざる「暗い星の下に」だった。

何となく読み始めると夢中になってしまい、第2話以降も読みたくなって本棚をゴソゴソやって徳間文庫の「凶銃ルーガーP08」を読み始め、ソッコーで読んでしまい、そのままのテンションでこの映画のレンタル落ちのDVDをポチってしまった。

DVDは2019年にリリースされたときにレンタルで観て、野獣と遊戯シリーズの優作を無理やりミックスしたようなあべちゃんにちょっと笑っちゃったのであるが、今回はマジメに観たぞ。
ハヴァナイスデェェェイ!

映画は、もうこれ以上わかりやすい映画はないというくらいにわかりやすく、男の解放と闇堕ちが忌まわしい凶銃によって引き起こされたことをめぐる暗い物語を描いていく。

暴力とセックスと死と再生と女と男と銃。
つまり感動であり、サミュエル・フラーいわく、それこそ映画だ。

ま、フラーを引き合いに出すほどたいした映画ではないのだが。

画面が何となく青っぽく、どことなく怪奇っぽいテイストもあり、濡れ場はやたら汗に濡れ、血糊はそれほど使われていないのにアクションシーンには陰惨な印象が濃く、とはいうもののカメラワークは画一的だし、おなじみの六平直政や大杉漣がいい味をしているものの彼らの代表作にはならない、決して。

要するに、あの狂乱の1990年代に量産されたジャパニーズバイオレンスムービーのひとつだ。
ちなみに、クソみたいな画質のDVDである。

しかしこの映画、僕としては、現代のパンピーが拳銃を撃つということに関するディテールを描くことに、かなりの手間と時間を費やしているところに好感を持つ。
何しろそれこそが、「凶銃」をはじめとする大藪春彦の小説の眼目だからだ。

僕は優作の『蘇える金狼』が大好きだけれども、あれが大藪春彦の著した「蘇える金狼」の忠実な映画化かというと、決してそんなことはない。

何しろ、あの映画では銃が単なる小道具であり、あまり存在感がない。
だから、優作の比類のないカッコよさにはシビれるけれども、大藪春彦のファンとしてはそれほど感心しない。

大藪春彦は、もちろん銃が大好きなんだと思うが、その執拗な書き込みと解説には何だか不穏な意図さえ感じてしまう。

まるで大藪春彦は、小説を(特に傭兵でも秘密工作員でもない一般ピープルのローンウルフが銃をとる小説を)書きながら、我々をけしかけているかのようなのだ。
銃を奪え、弾を取れ。
暴力的な体制に、たっぷりの弾薬と磨き抜いた銃で、あくなき抵抗を示せ。
そのやり方は、オレが教えてやる、と。

実際のところ、大藪春彦の小説中には、「大藪とかいうガンマニヤの書いた小説で銃の扱いを覚えた」という若者が出てきたりする。
若者は銃をぶっ放し、快感を覚えて欲に溺れ、犯罪にのめり込む。
そして判で押したように悲惨な結末を迎えるのだが、映画『凶銃ルガーP08』からは、大藪が繰り返し書いてきたそんなくらーい物語のエッセンスが濃厚に感じられる。

映画は、たっぷり時間をかけて、あべちゃんがルーガーP08に習熟するまでを描いていく。
モデルガン屋で同モデルのやつを買い、銃の技術書を買って構造を把握し、お手入れの方法を学ぶ。不良米兵から銃弾を仕入れる。
弾は意外と高く、無駄遣いできるほどには手に入らない。

そして凶銃が、凶銃としてあべちゃんをそそのかす。
銃に操られるようにして街を徘徊し、体を鍛え、強姦魔を撃ち殺し、弾を売るのをしぶった売人を撃ち殺し、半グレどもを撃ち殺し、屍を越えてなお引き金を引き続ける。

そして、凄まじいアクションのあとで訪れるあっけない終幕。ただ死のための死というべき、暴力的な幕切れ。
嗚呼これはまさしく大藪春彦だ。

監督の渡辺武なる人物の他の映画は存じ上げないが、かなり大藪を読み込んだのではなかろうか。
と思って調べてみると真木蔵人の『蘇える金狼』を撮った人らしい。
評判が悪かったのでスルーしていたが、いつか観てみようと思います。
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