三隅炎雄

昭和侠客伝の三隅炎雄のレビュー・感想・評価

昭和侠客伝(1963年製作の映画)
4.2
石井輝男が脚本監督で東映着流し任侠映画のひとつの雛形を作ってみせた重要作。前に村田英雄主演・佐伯清監督の『浅草の侠客』があり、これを挟んで翌年沢島忠監督・笠原和夫脚本の『人生劇場 新飛車角』へと繋がっていく。この映画は大昔テレビ地上波深夜で見たきりですっかり内容を忘れていたが、今回ああそうだったのかと思ったのは、主人公のアウトローと4人の女(うち一人は画面外の母)の話になっていることで、これは翌年石井が撮ったギャング映画『ならず者』と同じ構成だ。

あなたは子供の時、母親に捨てられたから女全体を憎んでいるんだろうと、鶴田浩二のこころを射抜くように真正面から指摘する三田佳子が良い。そのことで、仮令わずかな、まぶたを閉じるまでの瞬間だったとしても、真実を見抜いた彼女だけが、男たちの掟に絡めとられて生きてきた鶴田の、人生最期の救いとなる。後のシリアス寄りの任侠物『決着(おとしまえ)』正・続でもそうだったように、単純に男らしさを謳って終わろうとしないのが石井輝男の映画だ。

ジャンルとして洗練される前の映画なので、鶴田を含め何処かみんな抜き身の恐ろしさがあって、単にいなせ、短気で喧嘩っ早いだけではない、これは平気で簡単に人を殺せる人間たちの物語なのだという、一歩後退りさせる迫力がある。平幹二朗や大木実の悪党たちには得体の知れない現代的な薄気味悪さがあり、もっと燃えろと、平が対岸の火事を眺めながら子分たちと楽しそうに酒を飲むくだりは何やらサイコじみてゾッとする。
三隅炎雄

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