タカナリ

昭和侠客伝のタカナリのレビュー・感想・評価

昭和侠客伝(1963年製作の映画)
3.7
昭和5年浅草。
その辺一体を仕切る桜一家の三代目千之助が、桜一家に楯つく黒帯一家に刺された。事を荒立てたくなかった千之助であったが、黒帯一家の悪事に腹を据え兼ねた子分の重宗は、単身黒帯一家に乗り込んだ。

やくざ映画が嫌いな石井輝男監督が唯一手掛けた任侠映画。
「任侠映画路線」の4作目。

気になったのは、事を荒立てたくないという千之助の気持ち。
怒り任せで黒帯一家に乗り込んだりしたら、警察が重い腰を上げるだろうし、双方の一家だけでなく、近隣住民にも被害が出るから事を大きくしたくなかったのでしょう。
謝罪があるならまだしも、謝罪もなしで、黙っているのをいい事に浅草の町で好き勝手しています。それに対し、住民からは不満爆発。桜一家の評判も悪くなります。
これでも黙ってるのはいくらなんでも無茶です。ケジメや決まり事に特にこだわる重宗なんか特に無理。乗り込んでいくのは当たり前です。
今回の一件は、千之助の優しさと甘さが招いた事のように思えます。

重宗の単独での乗り込みなんですが、千之助の意思には反しますが、正解だったと思います。周りの住民に被害が出ていない上に、何かあっても傷つくのはひとまず重宗一人だけ。
そして何より、やり方がよく考えられています。千之助の思いを、重宗なりに汲み取ったのだと感じました。
しかし、伊勢に行ったあたりから重宗の甘さが見えてきて、それによって重宗を慕う者が襲われてしまいます。千之助の甘さを学んでしまったんですかね。
だけど、終盤の重宗と黒帯一家の対決の時は、その甘さが霞むくらいの威圧感がありました。自分に対しての怒りも感じましたね。

どうして優しい人ほど損をするのか。
そんな事を思った作品でした。