伊藤チコ革命的cinema同盟

昼下りの決斗の伊藤チコ革命的cinema同盟のネタバレレビュー・内容・結末

昼下りの決斗(1962年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

159.
西部劇は詳しくないんですが、ジャンル映画史の記念碑的な作品。『アンチ西部劇』とカテゴライズしてもいいんじゃないかなって思いました。
アンチ西部劇というと抽象的な言葉ですが、これまでの西部劇にありがちな要素・そこに描かれたテーマなどへの反発として用いました。
イーストウッドやイタリア製西部劇をイメージしていただければいいです。
本作はイタリア西部劇と正統派西部劇を最大公約数の点にある作品だと思います。

引退した保安官ジャッドが、と金鉱から金(労働者の預金)を持ち帰る仕事に就きました。強盗が出るので仲間を集めます。一人は保安官時代の相棒ギル、もう一人は若者ヘック。実はギルはヘックと一緒に金を横取りするつもりでした。
途中の牧場で信心深い上に潔癖症な父を娘がいました。娘は父親にうんざりして、金鉱労働者のビリーと結婚したがっていました。彼女はジャッドたちについていき、金鉱に行き、ビリーとケコーンします。
でもよく相手を確かめなかった娘は後悔します。ビリーはDQNでその仲間と兄妹もDQNで、金鉱の人々は汗臭くて飲んだくれて品行方正なお嬢様は住むことができない世界でした。結局、娘はビリーとリコーンしますが、ジャッドが無理やり離婚の手続きをしたので、ビリー一味はマジギレ。ジャッドたちを襲い激しい銃撃戦が巻き起こります。

西部劇だとひとめぼれした相手とケコーンなんてハッピーな展開が多いと思うんですが、本作は東部的な女性は西部的な男性を拒む展開。ロマンシズムに溢れたお約束を破るのはなかなか珍しい展開。
リコーンというのも貴重な設定です。

その後、娘を巡りジャッドとジミーは銃撃戦を行いますが、その前にジルのたくらみがばれてしまい、ジルとヘックはジャッドに捕縛されてしまいます。
ヘックはジルとは異なり情と義理に深い人間で、ジャッドに信頼されていますが、ジルは友達だった分ショックは大きかったようです。銃撃戦の最中でもなかなかジルに銃を渡さないジャッドの場面からも伝わります。

ジミーは一度退却しましたが、怒りは収まらず、娘の実家に押し掛け、父を射殺。彼女たちを待ち伏せします。
ジャッド達が来ると激しい銃撃戦が再開。ジャッドは腹を撃たれて致命傷を受けます。そこにジルがやってきます。ジルは前の晩逃亡したのですが、戻ってきたのです。
ジルの参戦でジャッドは巻き返し、ジミー達と決闘を行い勝利しますが、その時の傷で亡くなってしまいます。
この辺、オーヘンリーの『改心』とか一連の人情ものの短編のような味わいを感じられる場面で、暴力的・退廃的な作風ながら根底にはアメリカ流のヒューマニズムが流れているのを感じます。

本作のカメラワークもいいです。なんというかズームする演出がすごくセンスがあり、最後に乗り越えてきた山々を眺めながら息を引き取るアングルが、保安官の死=西部開拓時代の終了を意図してると思うのですが、センチメンタルな雰囲気があり、とてもいい。
決斗の場面も珍しい。ジャッドとジルが二人並んで、ジミー達に近づく。ジミー達は彼らを打ちますが、一発で倒すことは出来ません。
隠れるところが何もないまま撃ち合います。ここがすごくいい。ご都合主義な感じもありますが、映画的にすごくいい。

サム・ペキンパーはワイルドバンチを見たことがありますが、何がいいのかよくわかりませんでした。DQNたちが死んでザマアwwwな感想しかなかったです。でも本作のような味わい深い作品は、マカロニと正統派を融合し高みの次元に引き上げた作品に感じました。