荊冠

MEMORIESの荊冠のレビュー・感想・評価

MEMORIES(1995年製作の映画)
5.0
Netflixにあってようやく見られた。
『彼女の想いで』、『最臭兵器』、『大砲の街』の三部作で、切なくシリアスなSFストーリー、コメディタッチのパニックストーリー、カルト要素の強い実験的映像、というバランス良いオムニバスになっている。
全部見たあとにジャケットを見返すと3作が上手くミキシングされていることに気が付いて感動した。


【①彼女の想いで】
原作は大友の短編だそうだが未読(ただし映画化において内容は大幅アレンジされているらしい)。
『エイリアン』『ブレードランナー』で著名なリドリー・スコット監督も大好きだと公言している作品。
監督はケンイシイ「EXTRA」のPVなどで著名な森本晃司。『AKIRA』『魔女の宅急便』などの作画で実力を付け、大友に本作の監督として抜擢された。
脚本は『パプリカ』『千年女優』などで著名な今敏。
(これでそりゃ面白くないワケがない、どうあがいても神作にしかなりえないんだよな……あと音楽菅野よう子だし)
スペースデプリが散乱する宇宙や、宇宙船の墓場「サルガッソー」の退廃的で荒涼とした風景と、蘇る恋と栄光の時代の華やかで美しい夢の対比が胸に刺さる。
ホログラフィーが見せる幻に作業員たちが惑わされたSFストーリーというより、人の欲望や後悔が彷徨う亡霊の思念と共鳴してしまうような、宇宙という未知の空間で起こる超現象の空恐ろしさの方が強調された、ややオカルトな仕上がりなのがまた他のスペースものと一線を画していて好ましい。
「想いで」という字面は「想い出」という意味と、「想い」に「で」という格助詞が付いた形で「彼女の想い」によって引き起こされる何かを暗示する意味と、ふたつを掛けているのだろうか?

【②最臭兵器】
大友はもともとは川尻義昭に監督を依頼するつもりだったが、川尻のスタッフだった岡村天斎が務めることになった。
川尻が監督していたらもう少しシリアスになった気もしなくもない。
舞台となった山梨県のローカルネタが散りばめられている。


【③大砲の街】
何かに大して戦争を続けている、街全体が大砲として機能している移動都市の1家族の日常を切り取っている。
大友の普段のエンタメ性を期待して見ると肩透かしを食らうと思う。普段の画風とは打って変わったタッチで、全編20分をワンカットで構成しており、ほとんど説明のない中ただ戦時の緊迫感やどことなく不穏な雰囲気だけが漂っており、起承転結を持ったストーリーというよりは実験映画としての性格が強い。
故に個人的には、話が面白いというより、作画や構成が非常に面白かった。
『この世界の片隅に』で一躍有名になった片渕須直が技術設計として参加している。
荊冠

荊冠