タイレンジャー

ボクシング・ヘレナのタイレンジャーのレビュー・感想・評価

ボクシング・ヘレナ(1993年製作の映画)
4.0
ざっくりと要約すると、愛する女性の四肢を切断して監禁する男が主人公という映画です。

主人公は外科医のニックという男なのですが、この人物の設定がなかなか興味深いですね。

裕福な家庭に生まれながらも、本当の意味で両親から愛されることはなく、特に自己中心的で性的にも奔放であった母親から愛情を受けられなかったことが彼のトラウマ。そう、マザコンなのです。

ニックには献身的に支えてくれるマトモな彼女がいながらも、彼女とは性的に結ばれていません。どんなに試みても、ニックが挿入前に発射してしまうのです。盛り上がってきて、いざ出陣!というところでニックが「あああああぁぁ~~~」と。優しい彼女は「いいのよ」とニックをなだめます。

(この件は発射まで2秒だの3秒だのという言及があったりして笑わせてくれます。ニックにとっては紛れもない悲劇なんですが)

フライングのせいで挿入まで至らないというのは、ニック自身がまだ一丁前のオトコになりきれていないことを表していると考えられます。それは不倫しまくっていた母親の件があったため、性的な行為に無意識の抑圧を感じていたのでは。

または、母親のようにクソビッチで攻撃的な女性しか愛せなくなってしまっているのだと思いますね。ニックの内面は母親の幻影を追い求める少年のままなのです。

そんなニックが過去に一度だけベッドインした相手であるヘレナという女性と再会したことから浮足立ちます。その妖艶な魅力で男をとっかえひっかえし、自分の気分や都合で簡単に男を捨てる魔性の女がヘレナです。彼女こそまさにニックの母親と同タイプ!というわけなんですなぁ。

ドSなヘレナはドMなニックの想いを知りながらも、彼を嘲笑するような言葉を浴びせ、さらには彼の前で他の男にお持ち帰りされたりとやりたい放題です。「ニック、こんな女のどこがいいんだよ・・・」と観客は誰もが疑問に思うでしょうが、これがニックにとってはイイんですよ(笑)。

めでたく「母親と同等のクソビッチ」に認定されたヘレナは、ニックの姑息な計画にまんまとハメられ、監禁の憂き目に遭います。

しかも、目覚めたときには彼女の両脚が無い。ニックの屋敷を立ち去るときに轢き逃げ事故に遭い、ニックの治療の甲斐なく両脚が切断されていたという。

ニックは母親から得られなかった愛情を同タイプのヘレナから得ようと、監禁でありながらも優しく彼女の生活の面倒を見ます。いつしか、ヘレナの心が彼に向くことを願いながら・・・。

ポンコツ映画ですが、それなりに愛嬌があります。あまり深刻に受け止めずに距離を置いて観れば笑えるはず。