くまちゃん

ミッション:インポッシブル2のくまちゃんのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

制作も務めるトム・クルーズは監督を選択する事ができる。今作に抜擢されたのは香港ノワールの大家ジョン・ウー。
作品ごとに監督が異なれば大なり小なり監督の色や作家性のようなものが見られるはずだが、今作ほど監督の思想が反映されているものは他にはない。
走るイーサン・ハントを効果的に演出する羽ばたく鳩、トム・クルーズには珍しい二丁拳銃でのガンアクション、これらはジョン・ウーの特色であり、彼の他作品でも良く見られる。

脚本は前作にてデヴィッド・コープとの共同だったロバート・タウンが単独で担う。ロバート・タウンは「デイズ・オブ・サンダー」「ザ・ファーム法律事務所」「ミッション・インポッシブル」に続きトム・クルーズ作品3作目である。

休暇中のイーサン・ハントはロッククライミングに興じていた。下を覗くと足元が震えそうなくらい高い岩壁。これを生身でたった一人で登ってきたというのか。休暇中に正気の沙汰とは思えない。
イーサン・ハントが度々見せるオープニングアクションの源流はここにある。

指令を伝えるサングラス型ガジェット。
投げると爆発し、そのまま導火線に変わる。テーマ曲も相まって最高にクール。

今作でのイーサンはターゲットの女性ナイア・ホールと恋仲になる。このプレイボーイさはジェームズ・ボンドを彷彿とさせ、スパイ映画の王道としての影響が見られる。

バイオサイト製薬のネコルヴィッチ博士はキメラウィルスとその治療薬ベレロフォンを携えアトランタへ向かう途中飛行機事故で死亡する。
道中の護衛をイーサン・ハントに依頼したが休暇中のイーサンが捕まらなかったため、IMFはイーサンに変装したショーン・アンブローズを替玉として送り込んだ。アンブローズは事故に見せかけネコルヴィッチ博士を殺害したのだ。
この冒頭は前回使用された変装というスパイ技術が決してイーサンの専売特許ではなく悪用の可能性を示し、またイーサンが休暇だったことにも繋がる。

ウィルスとワクチンの名称にもなっているキメラとベレロフォンはギリシャ神話に由来する。ベレロフォンはプロイトスの妻、ステネボイアに好かれ誘惑される。これはイーサンとアンブローズの元恋人であるナイア・ホールの関係性と重なる。ちなみにベレロフォンはステネボイアからの誘いを断り、それがキメラ退治のきっかけとなった。
最終的にステネボイアは自殺、またはベレロフォンに殺害されるが、今作では自殺を図ろうとしたナイアをルーサーとビリーが確保し救出している。

クライマックスのアンブローズとの一騎打ちはカンフー映画的ではあるが、イーサンもアンブローズも攻撃動作が大きく受動的な殺陣であるためプロレスと言ったほうが近いかもしれない。

今作は前作のようなサスペンスは抑えられ、全面的にアクションが強化されている。それを象徴するのがトムの代名詞であるバイクチェイスだろう。
バイクアクション一つとってもジョン・ウーイズムのようなものが散見され、ストーリーは至ってシンプルにも関わらず見るものを飽きさせない。この合理性を無視した視覚的なアクションを色気漂うトム・クルーズ本人が演じることで荒唐無稽な内容に緊迫感とリアリティを与えている。
ただ「狼たちの挽歌」のようなある種の悲劇を持たせてもよかったのかもしれない。ハリウッドでのジョン・ウーはアメリカ映画過ぎるきらいがある。

そしてまたいつか、ジョン・ウーとトム・クルーズの再タッグを見れる日が来ることを密かに願う。
くまちゃん

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