桃子

断崖の桃子のレビュー・感想・評価

断崖(1941年製作の映画)
4.0
「チャラ男の夫とビビリの妻」

原題は「Suspicion(疑惑)」である。たしかに物語からするとこちらの方がぴったりくる。主人公が夫を疑う。それも、夫に殺されてしまうのではないかという恐怖の疑惑である。新婚の時の幸せ感はあっという間に消えて、夫の行動にいちいちビビる気弱な妻。見ている方もハラハラどきどき、かなりのサスペンスを味わえる。ヒッチコックの真骨頂だ。
いつも思うのだけれど、邦題のつけ方ってビミョーだ。「疑惑」が「断崖」になるって… ひとつ前に書いた「バルカン超特急」も原題は「The Lady Vanishes(消えた女)」でこっちの方がいいと思うんだけど。私だけ?一番納得がいかなかったのは、何と言っても「情婦」だ。「検察側の証人」じゃどうしてダメだったんだか…
気を取り直して。この映画で主演したジョーン・フォンテインはアカデミー賞主演女優償を受賞した。ヒッチコック作品でアカデミー賞を獲得したただひとりの俳優だそうである。そう言えば、ヒッチコック監督って、アカデミー賞では作品賞は取ったことがあるけれど(「レベッカ」)、監督賞はない。ヒッチコックは「サスペンス映画の神様」と呼ばれているので、これだけでも充分だと思う。たぶん、本人も受賞しないことをあまり気にしていなかったのではないかなあ。
魅せ方のテクニックに脱帽するしかない。終始一貫、視点はフォンテイン演じる妻のリナの方にあるので、彼女に簡単に感情移入できるようになっている。さらに夫ジョニーを演じているケイリー・グラントがまた上手い!チャラ男のキャラクターがはまっている。チャラいだけでなく、狡猾そうで残忍そうで、いかにも不良といった感じを醸しているのがいい。
桃子

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