幽斎

ソウの幽斎のレビュー・感想・評価

ソウ(2004年製作の映画)
5.0
これまで数多作られてきたサスペンス映画の中でも傑出した脚本と、長編初監督とは思えない緻密な構成と演出を手放しで褒めたい。単なる猟奇殺人を描くのでは無く、立脚した伏線に導かれる見事なラストは映画史に残ると断言できる。14年経った今でも、この作品を超えるサスペンスは無い。スリラーと言うジャンルを改めて確立した功績は賞賛に値する。

この作品の最大の特長は、その伏線回収の巧みさだ。衝撃的なラストを逆算して作られたであろう脚本ではあるが、決してオチありきの物語に留まっていないのが、この作品が評価される最大の理由だ。例えば公開当初、登場人物の行動に整合性が無いと批判されたが、あの状況下で冷静に行動できる人物なんてこの世に居ない。極限状態に置かれた人物のアラを探すこと自体、ナンセンスで名探偵が登場するミステリーなら、その指摘も頷けるが、これは名作「CUBE」と同じくソリッドシチュエーションスリラーで有り、狂気の沙汰で整然とした行動など取れる筈ない。そう思う時点でこの映画を楽しめてない、繰り返すがこの作品はあくまで娯楽なのだ。

私はCary Elwesが癌の専門医と紹介された時点で、犯人は彼の患者か関係者だと思ったが、彼が外科医で有る事を考えれば、自らの判断で足を切断し、あの部屋から脱出した時点で映画的には彼は助かると描写している。実際、足からは大量の血が出てない、つまり止血してある事も映像でハッキリ描かれてる、これで十分なのでは無いだろうか。

ミステリーの基本に立ち返ると、物語には多くの矛盾が存在する。それを見て脚本のアラだと直感された方は、失礼ながら間違ってる。矛盾が生まれた時に「どうして、こうなったのか?」とその奥に潜んでる訳を探るのかミステリーだ。この映画の凄いのは、それを置いてきぼりにする事無く、疾走感あふれる進行の中で考える余裕が与えられてる点だ。答えを導き出した辺りで、次の伏線を提示する、これを繰り返すことで最終的にラストに辿り着けるよう、とてもフェアに作られてる。私も含め、初見で全てを見抜く事はできない。だからTobin Bellは言ってる「ゲームをしょう」と。

最近はディズニーに代表される様に、説明が多過ぎる映画が多い。例えば画面が暗転したら回想部分に入る、と言った決まり事を分っていると、この様なスリラーは楽しめる。公開された時は「あの2人は、あの後どうなったのか?」と大いに盛り上がった。勿論、続編で答えは出てるが、スリラー映画が社会現象と呼べるムーブメントを起こすのは極めて稀。映画に詳しくない人でも「あー、あの気持ち悪いヤツ」と憶えてくれてる、最高の褒め言葉だと思います。

改めて見直して、やっぱり凄いと再認識。このジャンルでは珍しい真に語り継ぐべき作品です。超お薦めです。
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